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色々と『おかしくないそれ?』『ないだろ』みたいなところがあるかとは思いますが、セルフでツッコミ済みですのでどうぞ皆様はツッコミの心配をなさることなく、フィーリングで雰囲気を楽しんでいただけたら幸いです。
リアルを追求するよりもあるがままを受け入れる……少しだけ大人になったような気になりませんか?(ならないよ)
朝。
地上とは異なり日の昇らぬ冥界の夜明けは、唯一月の動きによってのみ知ることが出来る。
その日、冥王の一人である牛魔王の寝室では、常ならば部屋の主以外何人たりとも侵すことなど許されぬ静寂が、突如扉を開くけたたましい音と早朝にあるまじきハイテンションな声で破られるという前代未聞の出来事が発生していた。
「おはようございます父上!本日は絶好の宴日和!!さあご起床になってムーヴ!!!ム」
ゴッ!
鈍く、重い音が響き、寝室が再び静寂を取り戻す。
『ゴゴゴ……』という不穏な擬音を背後に纏い、寝起きの不機嫌丸出しで部屋の主である牛魔王が低く唸った。
「騒々しい」
「…………申し訳ありません父上」
声にこたえたのは、騒音の元凶であり床に顔をめり込ませたままの息子・紅孩児である。
牛魔王の一撃を受けても気を失わずにいるというのは、未熟ながらも少しは頑丈になってきたということなのか。
「……一体何事だ」
寝直そうかとも思ったが、早朝から紅孩児が寝室に押し掛けてくることなど珍しいので、万が一の非常事態を考慮して問いかける。
問われた紅孩児は、殴られたことなど忘れたように勢いよく身を起こした。
「はい!本日は父上のお生まれになっためでたき日……お祝いさせていただきたいと思いまして、ささやかながら宴席を設けさせていただきました!」
「…………………………………」
そういえば以前、そんな話をしたような覚えもある。
しかしわざわざ覚えていてわざわざ祝うとは思っていなかった。
自分の出自におよそ無関心な牛魔王からしてみれば、『父の誕生日を祝いたい』など『自分の誕生日だから祝って欲しい』と訴えられるよりも不可解な要求だ。
『下がれ』とあっさり一蹴しかけた。
が。
己の行動に何一つ疑問を持たず、今日という日への期待感で目をキラキラさせている紅孩児を見ていると、それも少々憚られた。
沈思黙考ののちに心の中で特大の溜息を一つ。
「……わかった。その宴とやらに出席してやろう」
「ありがとうございます父上!」
ぱああっと笑った顔がやけに幼く見えて、『本当にこれでいいのだろうか』と一抹の不安を覚えつつ。
牛魔は身支度のために立ち上がったのだった。
「何故貴様がここにいる」
紅孩児が言うところのパーティー会場、ダイニングルームの扉をくぐった牛魔王の第一声はそれだった。
宴らしく所狭しと料理の並ぶテーブルを前に、本日の主役のような顔をしてちゃっかり鎮座ましましている男…、
他の誰でもない閻魔王は、牛魔王の姿を認めるとさも当然のように言い放った。
限りなく胡散臭い、さわやか過ぎる笑顔で。
「もちろん、お前の『おたんじょうかい』に出席するためにやってきたのだが」
「我は貴様を呼んだ覚えはない。帰れ」
青筋を立ててズビシと出口を指差しながらの容赦のない言葉に返答したのは、
「えっ?閻魔王様をお招きしてはいけませんでしたか?」
……という驚きの声だった。
「……………………………」
お前か紅孩児。
最近色々な情報が閻魔に筒抜けな気がするのもひょっとしたらお前の所為か。
閻魔とは口をきくなといつもあれほど言っているのに。
まあ悪いのは全て言葉巧みに騙し唆す閻魔なので我が息子には何の非もないのだが。(牛魔ビジョン)
「父上……差し出た真似をして申し訳ありません…」
思わず言葉を失った牛魔王を見て気分を害したと思ったらしく(いや実際害したのだが)、紅孩児がしょんぼりと頭を下げた。
別にお前を責めているわけではないと、牛魔が口を開くより先に、
「牛魔よ、まあそう紅孩児を責めるな。私が祝いたいと言ったのだ」
何故か紅孩児をかばうように閻魔が言葉をかぶせた。
「…………貴様が諸悪の根源だということなどわかっている」
いい加減その胡散臭い『いい人っぽい笑顔』をやめろ。
わざとらしい言葉の数々に、牛魔の利き手がうずっとしたが、しかしあからさまな挑発に乗ってやるのも業腹だ。
スルー(大人の対処)を決め込み、座ることにした。
「それでは……」
牛魔王が着席したのを確認してから、紅孩児がグラスを掲げて、コホン、と一つ咳払い。
「お誕生日おめでとうございます父上!」
祝いの言葉の後に紅孩児が指を鳴らすと、部屋にある花瓶に次々に花が咲き、花びらが宙を舞った。
美しい花々が室内を鮮やかに彩る。
閻魔王がそれを楽しげに見上げて聞いた。
「ほう……お前の術か?紅孩児」
「色々と仕込んでおいたので……術なのは半分位で、まあ手品のようなものです」
意外にもこうした催しが好きらしい紅孩児は、閻魔王に『これはいいな』と褒められて恐縮しながらも大層喜んだ。
「そしてこちらが、父上への『お誕生日プレゼント』です!」
紅孩児が示す先には、窓。
窓を開けるとテラスになっていて、そこから城の裏手と城下が一望できるのだが。
よろしければこちらに来てご覧になってください、との言葉に牛魔王はそちらまで足を運んだ。
「贈り物は手作りがよい、と書物にありましたので、私も一つ自分で作ってみることにしました」
眼下に広がっているのは、広大な城の敷地に聳え立つ巨大な四角錐……。
「……………………ピラミッド?」
何でピラミッド。
牛魔王の後ろからひょいと顔を出した閻魔王が微かに首を傾げながら聞いた。
紅孩児が大きく頷く。
「はい!さる国では王は必ずこの神殿を作り、その大きさや豪華さをステータスとしたとかしなかったとか!私も父であると同時に主である父上の統治に少しでも華を添えたく思い、作りました!」
自力で!
四方の一辺が30メートルはあるかという巨大な建造物を自力で作り上げる……自らの妖怪としての力を最大限に駆使した大作なのだろう。
あのあたりには確か城仕えの上級妖怪の官舎があったような気がするが、影も形もなくなっている。
王への献上品=建造物、という図式が全くの間違いとはいえないが………。
できるからといって普通やらないだろう。
閻魔王は自分の所業は遠い棚の上に放り投げて『牛魔の部下も苦労するな』と内心苦笑した。
紅孩児がはりきってピラミッドについての説明をする。
「内部にある神殿では生贄の儀式をしたりしたようです。人間の心臓を抉り出したり四肢をバラバラに切り離し、それを神官や参列者が食したとか食さなかったとか」
「そうか……たまにはそうした趣もよいかも知れぬな」
ピラミッドは神殿というか王の墓で、ついでにその生贄の儀式はエジプトではなく中米のアステカ文明のものだろう、と思ったが、親子で綺麗にまとまっているようなので閻魔王はそれも黙っておくことにした。
修行にもなりました!との言葉に満足そうに頷く牛魔を見つつ、ツッコミ(独角)不在の現状をほんの少しだけ憂えた閻魔王であった。
「では食事の続きをお楽しみ下さい」
「ああ、待ってくれ。私からも牛魔に贈り物がある」
ひとしきり説明をして、再び着席しようとする二人を、閻魔王が呼び止めた。
牛魔は『一体何をする気だ』と言わんばかりに片眉を上げた。
「実は私のプレゼントも窓から見えるものでな」
それは刹那の合図。
ヒュッ…という音がしたかと思うと、冥界の夜空に鮮やかな花が咲いた。
「花火だ……!」
紅孩児が瞳を輝かせて、音が消えるのを待たずに次々打ちあがる花火を見つめる。
普段冥界の空が明るくなることなどないので、城下では一体何事かと驚く妖怪も少なくないだろう。
牛魔王も息子同様、思わずその光景に見入った。
「この日のために(独角が)用意した。……綺麗だろう?」
もちろん、今現地で花火師に指示を飛ばしているのも独角だ。
素直に認めてやるのも癪だったので、牛魔はふんと鼻を鳴らした。
ドン、と腹に響く音とともに夜空に浮かぶ『たんじょうびおめでとう』の文字。
「……………!」
わあ、と隣にいた紅孩児が歓声を上げる。
他の仕掛け花火よりも長く、その文字は星空を彩り、そしてまたあとから打ち上がった花火の間に消えた。
「……閻魔」
思わず、閻魔王の方を見ると、ドン、とまた一つ打ち上がる。
音につられて再び空に向けられた隻眼がとらえたそれは。
「…………………今、『牛魔のバカ』という文字が見えたのは我の気のせいか?」
恐ろしいくらいに静かな声音が問いかける。
閻魔王は特に慌てるでもなく穏やかな笑みを浮かべた。
「ふ……目がいいな牛魔よ。どうやら試しに(独角に)作らせたものが残って紛れ込んでいたようだ」
「……………………貴様………………………」
牛魔王のこめかみにビシッと青筋が立ち。
せっかくいい話になりかけたお誕生会が、いつもの城半壊オチになったことは言うまでもない。
おしまい☆
この後は、上の文章の続きではあるのですが、打って変わって真面目に父と息子の薄暗ほのぼのです!(何だそのジャンル)
ええもう、自分のためだけにかいてます!
……だってこんな二人が大好きだからさ……!!
もちろん、ファミリーでドタバタでゴタゴタも大好きなのですが。
……というわけでどっちも書いたわけです。
いつもの薄暗い二人も可!って方のみスクロールして先へお進みくださいませ~。
その夜、牛魔王がダイニングルームの前を通りかかると、中に紅孩児がいるのが見えた。
明かりもつけずにただ、壁に寄りかかり窓の外を見つめている。
暗い室内で月光に照らされた瞳だけが紅く、鮮やかだった。
「……紅孩児」
低く声をかけて近付いていけば、紅孩児は姿勢を正し、一礼した。
「父上……私に何かご用でしたか」
違うと否定するかわりに問いかける。
「何を見ていた」
牛魔王の下問に対して、紅孩児は少しだけ考えてから答えた。
「見ていた……というよりは、今日のことを考えていました。楽しかったな、……と」
「……………………そうか」
料理などほとんど手をつけないうちに閻魔との殴り合いになり、城が半壊した(あの後花火の始末をした独角が直すのを手伝いに来たお蔭でダイニングルームは何事もなかったかのようになっているが)ような宴が楽しかったのかお前は、と思ったが、『楽しかった』と笑った顔にはどう深読みしようとしても1ミリグラムも他意が感じ取れなかったので、これは紛れもない本音なのだろう。
本人がそれでいいなら別にいいが、一体どんな思考回路なのか。
紅孩児は誰よりも妖怪らしい性質を備えていながら、時折地上の人間のように無意味なことをしたがる。
それは甘さなのか、それとも余裕なのか。
どちらにしろそのような暇があれば己の力を磨くことこそが必要なのではないのか。
「父上のお生まれになった日を祝うことが出来て、本当によかった」
その一言をとても大切にそう呟いた紅孩児に、牛魔王は目を細めた。
「妖怪の誕生とは、他の妖怪にとって忌むべき事象でなくてはならないと……思わぬか」
微かな嘲りを含んだ言葉。
だが、紅孩児は揺らぐことはなかった。
「お言葉ですが父上。妖怪にとってより強き力に触れることこそが至福。であれば父上の生誕こそ、この冥界という地への祝福でありましょう」
それを祝うのはむしろ当然のこと。
そう、はっきりと言い切る。
迷いのない返答に「そうか」と一瞬だけその瞳を閉じた牛魔王が、
「紅孩児」
唐突に。
名を呼んだ声が紅孩児の聴覚に届くのを待たず、前触れもなく動いた。
音を知覚させる間すらも与えぬ速度の拳が紅孩児に向けて放たれる。
並の妖怪ならば己が攻撃を受けたことなど気付かぬうちに死んでいるであろう。
それが、しかし
空を、切った。
「っ…………」
紙一重で避けた紅孩児が飛びのき、崩れた態勢を立て直す。
牛魔王の口端がわずかに上がった。
「何故、避けた。お前の望みは我に殺されることではないのか?」
「……はい」
すっと紅孩児が跪く。
恭順、そして崇敬の意を込めて。
「ですが、今の一撃は避けるべきだと判断しました。殺意を感じませんでしたので。……それに」
「それに?」
「父上が、私が避けることをお望みでしたから」
見上げる表情が不敵に笑んだ。
薄い月明かりが鮮やかな紅の瞳を照らし出す。
やがて真紅に染まるであろう、日増しに濃さを増しているそれは、力の証。
ようやく牛魔王は満足の笑みを浮かべた。
お前の成長の方が下らん宴などよりも余程我の望むものだ
……そんな言葉をわざわざ口にしたりはしないが。
牛魔王は構えを解くと、ただ一言だけを口にした。
「……時間も遅い。もう休め」
特に何かを言わずとも紅孩児は、無意識のうちに理解しているのだろう。
「はい、父上。……お休みなさいませ」
聡明なる我が息子は。
紅孩児が去った後、牛魔王はしばしその場に佇んでいた。
先ほどの紅孩児と同じように、今日という日を反芻して。
「……まあ、確かに。……楽しかったといえなくもない一日であったな」
年に一日くらいはこのような騒がしい日があってもいいかと思うほどには。
牛魔王は『らしくない』と思いながらも、さほど悪くない気分で自らの寝室に向けて歩き出した。