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※11月5日閻魔誕の小?話です。










「…何を探している?」




一体何冊目になるだろうか。
最初からずっとそうであったように、それもまた手にとって何ページかめくると、すぐに棚に戻された。
目当ての本がなかなか見つからぬらしい紅孩児をただ観察しているだけにも飽いて、閻魔王は静かに問いかけた。




紅孩児は当然振り返ったが、すぐには答えない。
話すかどうか迷っているようだ。
「ここにある書物の内容は大体把握している。何か知りたいことがあるのなら力になるが」
「……………」


先刻、閻魔が城下を視察(…と称した散歩を)していると、街角にある小さな書店に佇む紅孩児の姿を発見したので声をかけた。
『調べ物がしたいならば城の書庫を見に来ないか』と誘ったのは、好意もあることはあるが、9割は興味本位と退屈しのぎである。

その申し出に紅孩児が素直に頷いたので、今に至っている。


本棚とにらめっこをする紅孩児を、昼夜変わることない月明かりの差し込む窓際の椅子から眺めながら、閻魔王は少し感心した。
初めて会った頃よりも、紅孩児は口数も増えたし、どこか殺伐とした雰囲気が消えて穏やかになったように見える。
表情が豊かになった分、逆に幼く見えるのが少し可笑しい。
牛魔王と紅孩児親子が普段どんな交流を図っているのかなど知る由もないが、息子の様子を見れば悪い環境ではないということは分かる。

意外や意外、泣く子も黙る『あの』牛魔王に子育ての才能があったのだろうか。
それともこの紅孩児に、牛魔王にすらそうさせるような、いわば『親育て』の才能があるのか。
あるいはどちらもなのか。

もともと牛魔王は、閻魔王のベスト・オブ・暇つぶし……もとい最大の好敵手であったが、紅孩児が来てからというもの、より一層ネタに事欠かなくなった……もとい親交が増した。
どうしてなかなか貴重な人材である。


さて、しばらく迷っていた紅孩児だが、どうやら口を開く気になったようだ。
改めて閻魔王の方に向き直り、
「閻魔王様は、……」
言葉を選んでいるのか、すぐに切れたその先を視線で促す。
結局適切な言葉が思い浮かばなかったらしく、納得いかない表情で紡がれた言葉は、少々予想外の質問だった。


「閻魔王様は、貰って嬉しいものはありますか?」


「貰って、嬉しいもの?」

思わず鸚鵡返す。

「……それは、誰に、どんな時に、何を貰うかにもよるのではないか?」
すぐにどういう類の質問なのか既に察しはついたが、一応念を入れた。
紅孩児は素直にその誘導に従う。
「……では、『何かの記念に目下の者から』ではどうですか」

「………………………ふむ。牛魔に何か贈りたいと、そういうことか?」

「…………はい」
内心『やはりな』と苦笑しつつ、もっともらしく振る舞う。
この書庫で見つかるような情報ではなかったわけだ。
「記念とは?」
「先日、父の生誕日を知る機会がありました。以前閻魔王様に貸していただいた本に、地上界では生まれた日を祝う習慣があると書いてあったので、自分にもできればと、そう思ったのです」

別に妖怪にも生まれた日を祝う習慣を持つ者はあるだろうが、牛魔王にそのような認識があるとは思えない。
普通は習慣として行う行事を、教えられてもいないのに自発的に『祝いたい』とはまったく大した孝行息子だ、と閻魔王は心の裡で微笑った。

「いい心がけだな。ちなみにいつだ?牛魔の生まれた日は」
「12月7日です!」
「覚えておこう」

元気に、そして何故か誇らしげに答えた紅孩児。
閻魔王は、『貴重な情報を得た』と早速脳内のイベントデータに『牛魔誕』を記録した。


「しかし、そうだな……贈り物、か」


腕を組んで思考を巡らせる。

貴重な情報を提供してもらったことだし、少しは真剣に考えてみるか。

…という本音は、当然口には出さない。
「無難なのは花だが……面白味に欠けるな。まあ牛魔はお前をかわいがっているからな。何を貰っても喜ぶのではないか?洗剤でも、油でも、米でも」

なぜ主婦が喜びそうなチョイスなのか。

あいにくツッコミは不在なので、紅孩児は「何でも…?」とその部分に眉根を寄せた。
「では参考までにお聞きしたいのですが、閻魔王様でしたら、何を貰えば嬉しいですか?」
「私か……?」
そういえば最初はそういう話だった。

しかし考えてみても欲しいもの、など、あまり思い浮かばない。
冥界の王である以上、欲しいと思えば自分で手に入れるし、
…牛魔もそうだとわかっているからこそ、紅孩児も悩んでいるのだろうが。

さて、どう答えたものかと悩んでいると、扉の外が騒がしい。
紅孩児もその音に気付いて首を傾げた。
もちろん、閻魔王には何の騒ぎだか想像がつく。
『今お取次ぎいたしますので』とか『お待ち下さい』だとか言う声が次第に近づいてきて…。


高い音を立てて、書庫の扉が開かれた。


「…紅孩児、やはりここにいたか……」

靴音も荒く、冥王閻魔の居城に何の遠慮もなく乗り込んできたのは、当然閻魔王の予想通りの男だ。

「…父上」

閻魔王と紅孩児、二人の姿を認めると漆黒のマントを翻し、つかつかと足早に近寄ってくる。
並の妖怪ならば、あてられれば倒れるかもしれぬほどの怒気を隠そうともせず、もう一人の冥界の王、牛魔は、閻魔王に詰め寄った。
「閻魔!貴様…人の息子を拉致監禁とはいったいどういう了見だ!我が息子に貴様のいい加減さが伝染ったらどうしてくれる!」
「一体どこをどうしたらそのような状況に見えるというのだ牛魔よ。私はただ、紅孩児の相談に乗っていただけだ」
「相談?一体どんな助言をするつもりだ。紅孩児に何を吹き込むつもりだった」
「吹き込むとは人聞きが悪いな。お前の教育に足りない部分を補ってやろうとしたのに」
「貴様……!!」

牛魔王の怒りで室内が揺れた。

次の瞬間、鋭い拳圧が閻魔王のいた場所に穴をあけたが、目標は既にそこにはいない。
ひらりと、白いコートが牛魔の頭上をかすめて、右上からの気弾の強襲。
牛魔王は死角からの攻撃を当然のようにかわし、目標を失った閻魔の攻撃が床に無数の穴をあけた。
一定の距離をとり、次の攻撃のタイミングを計る二人。
閻魔王がちらりと紅孩児の姿を探すと、視界の端に映った孝行息子は二人の近距離戦の射程範囲外で既に紅茶を淹れ始めていた。
ちゃっかり本を数冊ゲットしているあたりがたくましい。


「閻魔王様!牛魔王様!ッ……遅かったか!!」


そこへ、ようやくツッコミもとい仲裁役がやってきた。
書庫に駆け込んできた独角鬼は、早くも書庫の床と壁に空いた穴にがっくりと肩を落とす。

「…独角。今は呼んでいないぞ。下がっていい」

そちらに視線だけを向けて、偉大尊大に言い放つ紅孩児。
もちろん、それに反応しない独角ではない。
「紅孩児…何故貴様がそれを言う…!」
「俺様の方が偉いからに決まっているだろう」
「偉いとかそういう問題ではないだろうが!というかなんだそのティーセットは!この状況で寛ぐとかどういう神経なんだ貴様は!」
「何を言っている。父上と閻魔王様はお話し中なのだぞ?お待ちするのは当然だろうが。ノックもなしに割り込んできた貴様の神経こそ疑わしい」
「っ……………!!!!!」

どこから突っ込んでいいのかわからず、怒りのあまり口をパクパクさせる独角がおかしくて、閻魔王はふきだした。
その様子に気勢をそがれたのか、牛魔王もひとまず構えを解いた。
「……ふ、まあとりあえず茶の一杯でもどうだ、牛魔よ」
「ふざけるな。誰が貴様となど」
「紅孩児、私達にも一杯もらえるか」
みなまで言わせず、閻魔は紅孩児の方へと振った。
当然、紅孩児が断わるはずもない。
「かしこまりました。おかけになってお待ちください」
「……………………」

牛魔は嬉々として追加の紅茶を淹れはじめた息子を物言いたげに見下ろしていたが、結局何も言わずにその隣に座った。

閻魔はその向かいに座る。
ついでに、愛すべき部下にも椅子をすすめた。
「独角、お前も座ったらどうだ?」
「閻魔王様……そもそも私が視察に行っている間に政務をしていただいているはずが何故こんなことに」
「まあそう気を落とすな。長い一生だ、そのうちいいこともある」
「………お気遣い、痛み入ります………」
むしろ閻魔王の一言に気を落とした独角は、若干自棄気味に席に着いた。

薄暗い書庫での和やか?なティーパーティーの始まりである。

「茶菓子も出ないのか?」との紅孩児の言葉に青筋を立てた独角が、「これなら文句はないだろう!」と、喚び寄せた菓子でテーブルをいっぱいにする。
生菓子も焼き菓子も種類豊富で、どれもこれも美味そうなものばかり。
最近になって知ったのだが、独角は甘党なのだ。
「菓子をメインにしてどうする!主役はあくまで紅茶であるべきということが貴様には分らないのか!」「貴様のアフタヌーンティー観を他人に押し付けるな」とまた口論が始まり、いいかげん煩く感じたらしい牛魔王が「黙って飲め」と二人をたしなめている。

そんな様子を無責任に微笑ましく見ながら、ああそうか、と納得した。


これが自分の答え、『欲しいもの』だ。


より長くこの日常が続くことを。
他者に知られれば、妖怪を束ねる冥界の王が望むようなことではないと、日和っていると謗られるかもしれぬ。
だが、これは望んで得られるものではあるまい。
誰かから奪えるものではないのだから。
その点では、力で手に入れられるものよりも貴重だろう。

……しかし『贈るもの』ではない。
だから結局紅孩児の問いに対する答えにはなりえないのだが。
それに、きっと今の紅孩児には、言っても意味がわからないだろう。
紅孩児がこの瞬間を『あの時は幸福だった』と振り返る未来など来なければいいと、そう思う。

差し出された紅茶を「美味いな」と褒めれば、紅孩児ではなく牛魔王が「当然だ」と胸を張った。


さて、この男の生誕日に紅孩児はどんなものを用意するのか。
その日を楽しみに待つとしよう。
愛すべき日常と共に。











■やけに長い後書き
閻魔誕 祝ってないけど おめでとう (何故五七五)
自分は閻魔王に関しては、銀河英雄伝説のヤン・ウェンリー的と言いますか、その時々に必要なことをしていたら英雄になってしまった系の王様だという認識?妄想?捏造?がありまして。
そんな閻魔王の理想の冥界、っていうとやっぱり、愉快な仲間たちとのグダグダライフなのかなあと。
岩城さんがそういうの好きなだけなんですけどね!
牛魔と紅孩児と独角大好きな閻魔王が書きたかっただけ!みたいなね!
ちなみに言うまでもなく、この話は紅孩児誕の続きで、牛魔誕につながる予定です。
全部牛魔誕のための準備!になっているような気もしますが、
あれおかしいな、岩城父上が一番好きみたいに見える。(って相棒にも言われた)
別に順位をつける必要もないのですが、一応、最優先は紅孩児!
でも父上あっての紅孩児なので、紅孩児を尊重すると父上至上主義になってしまう不思議。
紅孩児が父上好きすぎなのがいけないんです。
そういうことにしておく。

遅刻したけど閻魔誕祝えてよかった…!
ささやかだけど一番難しいのが『平穏な日常』なんじゃないかと思います。
そんな、お話でした。

独角の甘党は、蘇芳が甘いもの好きなのでちょっと合わせてみた!
独角はこの口調でお堅い中身だとかなり悟浄とかぶるので、プライベートではわりとラフな人ということにしています。岩城の脳内では。
蘭花と蘇芳、みたいにオンとオフの切り替えがはっきりしてる人だといい。
まあ、ラフと言っても、蘇芳みたいなくだけ方ではないでしょうが。
でも選ぶ服はわりと派手だったりとか。
物にはこだわりがあって金をかけるタイプだとか。
なんかそういうの。

おとなしそうに見えて負けん気強くて、意外に喧嘩っ早いのを仕事の時は切り替えて抑えてるのに、紅孩児がイラッとくることばっかり言うからついつい素の自分が出てしまうのが嫌なので紅孩児が嫌いなんだよ!!
それ、愛なんじゃ(以下検閲により削除)

最近独角妄想も止まらないんだけどどうしたら……。
閻魔王と独角の出会いとかが脳内に広がっていて困ります。
美味しい男だぜ……!
 

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