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夢を見る。
繰り返し、繰り返し。
父上に殺される夢だ。

焦がれ、焦がれてようやく得られた最期の瞬間。

俺は満足して目を閉じる。
味わったことのないほどに満ち足りた気分で。

目が覚めて、

それは全て夢で、

目を覚ませたことに、

自分が生きている事実に酷く失望するのだ。





1.蘇芳

「……………それ、病んでるよ。早めに病院行った方がいいんでないの?」
「病院?俺様はいたって健康だが。妖怪ドックでも毎年まったく問題なしのオールグリーンだぞ」
「いや、体のことじゃなくてね…」

ていうか妖怪ドックなんてあるんだ知らなかったよ。
数値が高いとか言ってるの聞いたことないけど金と銀も行ってるのかな。

牛魔王に用があって城を訪れたところ、その一角にある、殺伐とした冥界に不似合いな優雅な庭園(主に紅孩児が紅茶を飲むために使用している)で愛用の茶器と共にぼんやりしている紅孩児を見つけ、挨拶がてら声をかけたら同席を求められた。
急ぎの用でもなかったし、自分が近付くまで気づかないほどこの男がぼーっとしていることなど珍しいので気になって、了承して今に至っている。
男二人でティーパーティーなんて、あまり心楽しいイベントでもないが、まあ、蘇芳も美味いものは嫌いではない。
深く考えずに、芳醇な香りの紅茶とあまり食べ慣れない西の大陸のものらしい「たると」とやらを馳走になる。
少しくつろいだところで、何を考えていたのかと聞いたらこの夢の話だ。
心底聞かなければ良かったと思っても後の祭りである。

「貴様が話してみろと言ったんだろうが。何だその引いた反応は」
「引くだろ今の話は……。
 もっとまともな愛を育んでよ」
蘇芳は秀麗な眉を顰め、がっくりと溜息をついた。
一体どうしてこうなったのか、妖怪の生きる途方もない年月がそうさせるのか、一途に歪んだこの二人の関係にはついていけそうもない。
否、妖怪だから、ということはないだろう。妖怪だって、人間のように恋愛して家庭を築く。
気性ゆえにその愛情が多少行き過ぎたり、暴力的であったり、などということはあるかもしれないが。
少なくともこんな話をされたことは、一度もない。
しかし、蘇芳の言葉を受けて紅孩児は心底不思議そうに首を傾げた。

「…………愛?何故そこで愛などという単語が出てくる。病院に行った方がいいのは貴様ではないのか?」

本気だ。この男、本気で言っている。

先程の夢の話、内容はあまりにもアレだが、蘇芳には「好きな人とコトが成就する夢を見ちゃった☆」と言っているようにしか聞こえなかった。
むしろ「自覚なかったんだ……」にドン引きだ。

「だってソレ、愛じゃなかったらなんなの」

行き過ぎたMっ子?勘弁してよそういうのは。

「……………俺は、父上を尊敬している」
「単なる尊敬なら殺されなくてもいいんじゃない」
「愛などという感情は必要ない」
「こーゆーのは、必要とか必要ないとかじゃないでしょ。恋に理屈なんてないのと一緒!」
「……………恋?」

いや、そんな『頭は大丈夫か』みたいな視線向けられても。そっちだよ。

蘇芳は冥界も妖怪も愛しているが、この二人のことは理解できない。否、したくない。
…正直、きちんと統治してくれるのならば、二人の仲がどうだろうとどうでもいいのだ。
自分で聞いておいてなんだが、何かもう、関わらない方がいいような気になってきた。
こういうときにかけるべき言葉は唯一つ。

「お大事に」

そして頂く物だけ頂くと、触らぬ神になんとやら、そそくさとその場を後にした。

 




2.紅孩児

「お大事に」などというふざけた言葉を残して蘇芳は去っていった。
いつも思うのだが、失礼な男だ。
何故あのような脆弱で矮小な人間ごときがこの城への出入りを許されているのか理解に苦しむ。

『だってソレ、愛じゃなかったらなんなの』

蘇芳の言葉が脳裡を過ぎり、紅孩児は眉根を寄せた。
愛、のはずはない。
愛であっていいはずがない。

ふと口にした紅茶は冷え切っていて、淹れなおすかと湯を沸かす。
時間のないときには即席で用意させたもので我慢するが、自分の時間で紅茶を楽しむ時には自ら淹れる。
湯を沸かすところから美味な紅茶へのシャイニングロードは始まっているのだ。
そう……家に帰るまでが遠足なのと同じこと。

火にかけた水を見るともなしにぼんやりと見つめる。

牛魔王の、父の愛を欲しいと思ったことはない。
いや、正確には、「そのような感情を抱く父を見たくない」のだ。
だが、それが押し付けであるということもわかっている。
だから、何も望まない。
いつでも自分は与えられる物を享受するだけだ。



「紅孩児」



背後から唐突にかけられた声に、思わずびくりと体を揺らした。
慌てて立ち上がり振り返れば、牛魔王が静かに佇んでいる。

父上の気配に気付けなかったとは、何という失態だ。

「父上……!申し訳ありません。何か御用でしたか」
「いや、何とはなしに歩いていただけだ。…もらってもよいか」
珍しく紅茶を所望した牛魔王に、紅孩児は「もちろんです」と向かいの椅子を引いた。
「おかけください。…今ちょうど湯が沸いたところですので」

ポットに茶葉をもう一人分足して、湯を注いで砂時計をひっくり返した。
茶葉が湯の中で踊る様を見るのは至福の時だ。
カップに注ぐ瞬間が待ち遠しい。
以前蘇芳にそれを語ってやったところ、『カップ麺が出来るのを3分待ってる時と同じだね』などと言っていた。
そのような下賤の、しかも即席の食べ物と紅茶を同じ土俵で語るなど侮辱以外の何物でもない。
究極に失礼な男だ。
この茶葉に相応しい時間きっかりで、温まっているカップに液体を注ぐ。
ここまでを澱みない動作でこなし、牛魔王の前に紅茶を置くと自らはその後ろに控えた。
牛魔王が一口それを飲んで目を細める。

「……悪くない」
「ありがとうございます」
「紅孩児」
「はい」
「お前も座れ」
「……では、失礼致します」

許可を得て、先程まで座っていた椅子にかけた。
珍しくはあるものの、牛魔王の気まぐれでこうしたシチュエーションになることもないではない。
そしていつの時も特に会話はなかった。
紅孩児と牛魔王の間に『雑談』といった類のものはない。
そのような無駄なものを牛魔王は好まないからだ。(…と、紅孩児は思っている)

終始無言のまま一杯目を飲み終えた父に、紅孩児が『もう一杯いかがですか』と切り出そうとしたその時だった。

高位の妖怪である紅孩児すら対応しきれない速度で、それは動いた。


「っ!?」


視界が突然反転して、背中を打ちつけた衝撃で呼吸が止まる。
絞め殺されそうなほどに強く首を押さえつけられて、むせることすらも許されず、苦しみながら今できる唯一のこと…、

自分を地面へと押さえつける父を見上げた。


「紅孩児」


抵抗するかしないかすらも決めかねて、ただ胸を喘がせるしかない紅孩児を見下ろして、ただ一人の息子を呼んだ牛魔王の声は、静かで、甘く、この光景にあまりにも不似合いだった。
左胸に、掌が触れる。
ぐ、と押され、爪を立てられた。

抉られ、そうだ。

明確な殺意を感じ取る。

……殺される。

恐怖に鼓動はうるさいほど鳴り、手足が冷たくなるのがわかった。
何故、とは考えない。
今この瞬間をとても自然な事のように感じていた。
恐怖しながらも、確かにそれを、自分は望んでいる。


「欲しいか?」


吹き込まれた、誘惑。
期待に胸が詰まり息が上がった。
苦しいのは、首が絞まっているせいではない。
貴方の力に焦がれているからだ。


「……………はい」



ああ、



これで終わることが出来たなら、

何という至福だろうか。

紅孩児は、きっと叶わぬであろうその瞬間を想って、静かに瞳を閉じた。


 


愛情と殺意の境界線はどこにある。
相手の全てが欲しいと思うのが愛なら
妖怪―我ら―にとってのそれは殺すことに他ならないのではないか。
そしてそれを愛と定義するのならば、
「貴方に殺されたい」
この感情は、愛なのかもしれない。




3.牛魔王

「あんたの息子さん、よっきゅーふまんだってさ」

蘇芳は開口一番そういった。
「………………………何だ突然」
一体何の話かと眉を顰めたが、質問に対しての返答はなかった。
冥界に生きる唯一の人間は、下級の凶暴化などに対する事務的な陳情をいくつか述べると、「もう少し構ってやったら」などと言うだけ言って、さっさとその場を辞した。

答えが得られなかったので、仕方がなく憶測を巡らせる。
あの紅孩児が『父上に構ってもらえなくて寂しい』などと言う筈もない。
しかし、何もなければ蘇芳がわざわざそんなことを言う必要はないはずだ。
そう思わせるような何かがあったのかと少々興味が湧いて、牛魔王は紅孩児の元に向かうことにした。


紅孩児は庭にいた。
気に入りの茶器でティータイム中のようだ。
何かを考え込んでいるようで、かなり接近しても気付かない。
「紅孩児」
声をかければ、びくりと体を揺らす。

牛魔王は様子見がてら、気まぐれに息子の茶会に付き合ってみることにした。
特にそのもの自体に執着があるわけではないが、紅孩児の淹れる紅茶は悪くない、と思っている。

しかし、成程。
正面に座り静かにティーカップを傾ける紅孩児を見ていたら、蘇芳の『欲求不満』の意味が理解できた。

「(……物欲しそうな顔をしているな)」

欲にも色々あろうが、紅孩児の場合「殺されたい」なのが可笑しい。
自殺願望ならぬ他殺願望とでも言うのだろうか。
妖怪は欲望に忠実な種族だ。
中でも、生き物にとって最も原始的で最も強いのは、生への欲望であろう。
力に執着し、力を求める。
何よりも妖怪らしい気質を持ちながら、この紅孩児には生への執着がまるでないようだった。
正確に言うならば、牛魔王に対してのみ、であるが。
『殺したい』ならばわかるが、紅孩児の言動の端々からは、父を超えたいという思考は窺えない。
変わった奴だ、と思う。
跡継ぎ、という立場なのだから、もう少し貪欲になって欲しいと思わないでもない。
もっとも、そこが興味深くて気に入っているのだが。


今も、地面に引き倒し本気の殺意をあてても、紅孩児は抗おうとしない。


抵抗しても無駄だとわかっているから?
三蔵法師が現世にあらわれた今、自分を殺すのは得策ではないから殺されないと思っている?
それこそそんな理由ならば、今すぐに殺してやってもいい。
『待ち望んでいた』というような焦がれた瞳に見上げられて思わず唇に笑みを刻んだ。

「欲しいか?」


そんなにも、我と一つになる瞬間が。


「………はい」

服従でも、諦観でもない。
真実の肯定に、望みをかなえてやりたい衝動に駆られる。
何よりも自分を望む魂と一つになることは甘美な誘いだ。
紅孩児は牛魔王の力の一部となり、主の命が果てる時まで共に在る。


どちらかの手に後もう少し力をこめれば、その瞬間は訪れるのに。




「つッ」

牛魔王は、
静かに目を閉じた紅孩児の額に、
デコピンをした。

何しろ冥界を統べし王のデコピンだ。
短く声を上げた紅孩児の頭が地面にめり込んで、首から少々鈍い音が聞こえたが、しかしまあ相手も高位の妖怪。すぐに復活するだろう。
案の定、牛魔王が立ち上がってすぐに、紅孩児も額をこすりながら立ち上がる。
特に残念そうでも、安堵したようでもない。不平不満を口にしたりもしない。
ただ倒れた椅子を直し、何事もなかったかのようにこう言った。

「もう一杯いかがですか、父上」

牛魔王の唇に、微笑が浮かんだ。

「ああ、もらおう」

これでいい。

そう簡単に望む物をくれてやっては面白くもない。
満足こそ、怠惰の象徴。
不満なくらいでちょうどいいのだ。
欲しければ求め、その手で奪う。
それが我ら妖怪にとっての真実。


全てをもって、我を求めるがいい。
お前も、それをこそ求めているのだろう、…紅孩児。



 

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