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カーフェイ×テレサ。
捏造カーフェイルート第三話。








「まっさかさま高く飛んだ底の色は絳<アカ>-前編-」




見事な弧を描いて、白刃が鋭く閃く。


「う……わっ!ちょ、カーフェイ、待っ………!」


無慈悲に迫る曲刀に慌てるウォルター。
しかし予想された惨劇は起こることはなく、刃は首筋ぎりぎりのところでぴたりと止まった。

「び、びびった~」
硬直を解いたウォルターが尻餅をついた格好のまま大きく息を吐き出すと、カーフェイは流れるような動作で引いた刃を鞘に納めながら、
「……本気で殺すわけがないだろうが」
…ちょっと、不本意そうな声だ。

「いやだって今のは本気の殺気だっただろ、なあ!?」
同意を求められたギャラリーがうんうんと首を縦に振る。
カーフェイは涼しい顔でやれやれと肩をすくめた。
「やるからには本気でやるに決まっているだろう。中途半端は好かん」
「や、まあそうかもしんねーけどさ……」
ぶつぶつ言いながらも、差し出された手を迷いなく取れる辺りに、二人の、というか騎士団長間の絶対の信頼みたいなものが感じられて、私は一人嬉しくなった。




革命決行の日までの一週間。
騎士団に与えられた束の間の平穏。

ある日、朝食の時にふとしたきっかけから、騎士団長の中で最強なのは誰か!?なんて話になって、カインの制止も聞かず「じゃあ勝負!」「折角だからギャラリー集めて模擬戦て形にしたらどう?騎士団長たちの勇姿を見せれば、戦いを前に士気もあがるってもんでしょ!」……とかなんとか、まあ、いつもの展開というか。
ノリと勢いで決まった模擬戦の会場になった訓練場は、騎士団の人間全員集まってるんじゃないかというくらいのギャラリーで埋め尽くされ、かつてない熱気に満ちている。


で、初戦がカーフェイとウォルター。
ウォルターも相当善戦していたけど、結果は見ての通り。


他の騎士団長たちが「次は誰にするか」って話で盛り上がるこちらに引き上げてきたウォルターは、悔しそうに掌に拳をたたきつけた。
「あークソッ!負けた~!テレサも見てるしかっこいいとこ見せたかったのにな~」
私はそのストレートな感情表現を微笑ましく思いながら(何しろ素直じゃない人が多い傭兵団だからね…)、彼の服に付いてる埃を払ってあげる。

「十分かっこよかったよ、ウォルターも」
「でも負けちまったろ?」
「試合の最初にフェイクの攻撃を読んですごいカウンターを返したじゃない。カーフェイ一瞬すごく悔しそうな顔してた」
「え、マジで?」
「あれ?フェイクだって気付いてなかったの?」

なんて、実は私は気付かなかったんだけど。
騎士団長クラスの戦いは攻防が激しすぎて何が起こってるか私には認識が追いつかない。
だからカーフェイが眉を寄せたのを見て「あれっ?」って思ったら、隣にいたキーファーとユージィンが、「見事なフェイクでしたがウォルターはよく防ぎましたね」なんて話してるのが聞こえて、ああなるほど、と思っただけなんだ。
ウォルターは天性の格闘センスみたいな物に満ち満ちてそうだから、意識しないで反撃するくらいできちゃうのかな、なんて思っていたら。


「あ、いやそうじゃなくて、表情なんか変わってたか?カーフェイ。全然気付かなかったな」


「え」


「う~ん、君はよく見てるんだねえ、カーフェイを」


首をひねったウォルターの後ろからひょいと顔を出したジョヴァンニの一言に私は激しく動揺した。
「ええ!?いやあの、た、たまたまだと思う……よ?」
二人も見てたよね?とユージィンとキーファーを振り返ると。

「特に表情には注意を払っていませんでしたから、気付きませんでした」

「ふっ……。お前のような小娘に戦闘の高度な駆け引きが理解できるとは思えませんからね。ぼーっとしていて白昼夢でもみたのでしょう」


そうですね、この二人にフォローを求めた私が愚かでしたね。


「おい、それで?次は誰がやるんだー?」
針のむしろになりかけたところを、ゲルハルトが次を促してくれたので私はほっと胸をなで下ろしたんだけど。


「じゃあ僕が、カーフェイにお相手願おうかな」


ジョヴァンニがくるりと彼の方を向いて、綺麗すぎて逆に怖いような笑顔で宣言した。
「……別に構わんが、連戦か」
「うん、無理そうならいいけど」
「だから構わんとは言ったろうが」
少しだけむっとして言い返したカーフェイの前に、あからさまに含むところのありそうな微笑をたたえたユージィンが進み出る。

「ではジョヴァンニの次は私がカーフェイと」

「………おい?」
「私も対暗器用の戦略を練らせてもらうとしましょうか」
更にはキーファーまでそんなことを言い出して。
「何だと!?」
流石に顔色を変えたカーフェイの前に揃い踏みした三人がニヤリと邪悪に笑う。



「僕たち今、『いつもすましたツラしてるカーフェイのかっこ悪いところを見隊』結成中だから」



うわあ………。
なんだかよくわからないけどカーフェイが大ピンチ!
カインが「連戦はあまりよくない。他の組の対戦を挟みながらにしろ」って一応諫めてるけど…、でもカーフェイ対他の騎士団長達って構図は止めないんだ……。
果てにはレヴィアス様が「面白そうだな、私も混ぜてもらおうか」なんて言い始めて、騎士団長対抗模擬戦は混沌の様を呈した。




革命を目前にした、束の間の休息。
当日の作戦行動に差し支えるんじゃっていうくらいみんなからの集中放火を浴びているカーフェイも、迷惑そうにしながらもどこか楽しそうで、こんな日が続けばいいのにと、思わずにはいられない。




私の、とても大切な人たち。




レヴィアス騎士団に来たばかりの頃は、傭兵団というものは、誰かを傷つけてお金を得る野蛮で残酷なお仕事だと思っていた。
今だって、ひとたび戦闘になれば昨日笑っていた人が今日はもういないことが日常であることを恐ろしいと思っている。

だけど、力がなければ正論を振りかざすことすらできない現実から目をそらすことはできなかった。
人を殺すこととイコールではないにしても、誰しも守りたいものを守るために戦わなければならない場面がある。
それは、身を守るために凶暴な野生動物を殺すことと何の差があるのだろう。
騎士団以外の人をも巻き込んで無差別攻撃してきた皇帝に対して抗おうとすることは、まさにそういうことなんじゃないかと思っている。

それが正義であってはならない。
だけど、悪であると咎めることもできないのだと、私は知った。


きっと、私にそれを理解させたのはカーフェイだ。


彼が戦場で戦う姿を見たことがある。
あまりにも自然な動作で敵を倒していく彼からは、何故か残酷さを感じなかった。

彼がフェイレイで所属していた組織では、自己犠牲を厭わない戦略が当たり前だったと聞いた。
それはそうかもしれない。
生きようとしなければ死んでしまうような貧しく厳しい環境では、逆に命の尊さよりも軽さを意識するものだ。

自分自信のことを含め、「命」に価値を置かない彼。
その孤高の潔さは、しかし慈しみの心も秘めていて。
冷淡さと優しさが矛盾なく両立するという不思議なカーフェイの内面に、私は酷く惹きつけられてしまった。

美しいものを見て目を細めた彼を、私の頭を撫でた大きな手を、かけられた優しい声を、思い出す度に胸が焦げ付くような感じがする。

もっと側にいたいと思うようになったけど、彼には一つ大きな理想があり、きっとそれ以外のことは望んでいないのだろうと、わかっているから何も言えなかった。
ただこの先の戦いも無事でいて欲しい。
彼の望む世界をその目で見る時まで、生きていて欲しいと強く願うばかりで。










大切な人たちと過ごす楽しい時間は、飛ぶように過ぎる。
賑やかな一日が終わって空が闇に包まれると、私はそっと、ここのところ日課になっている散歩に出た。
美しい夜空を見上げていると、いつもそれはすぐににじんでしまって。
夜風が目にしみるからだと自分に言い訳する。


その日がこなければいいのになんて思っては駄目だ。
中途半端な覚悟の人間は戦場では足手まといでしかないのだから。
みんなの足を引っ張りたくない。
……だけど、失うことが怖くて仕方がなくて。




「……恐ろしいのか?」




            突然。
まるで心を読んだかのような言葉をかけられて、驚いて振り返った。


「カーフェイ……」


聞こえてきた方に向き直るまでに、頭はその声を認識している。
彼は静かに歩いてきて私の横に並ぶと、夜空を仰いだ。

「最近夜になると必ず船の外に出ていくな、お前は。……大きな戦が恐ろしいか」
「………………うん………………」
小さく頷くと、カーフェイが黙ってしまったので私は一人焦る。
「あの、ご、ごめんね!こんなんじゃみんなの士気を下げちゃうよね!大丈夫、朝には元気になるよ。明日はね、ルノーと出かけるんだ!だから……」


もう戻るね、と歩きだそうとした腕を掴まれた。


「カーフェ……………」


「少し、話さないか」




頷いてはいけないと思った。
優しい言葉をかけてもらったらきっと弱音を吐いてしまう。
このまま普通の傭兵団としてみんな一緒にいられたらいいのになんて、愚かなことを口走ってしまいそうだ。

だけど。
戦いが始まれば、きっと話をする機会などない。

……結局、側にいたい気持ちが勝って、私は小さく頷いていた。




引き留めておきながら、カーフェイは黙ってしまった。
何か言って欲しいような、何も言わないで欲しいような、複雑な気持ちの狭間で揺れながら、ただただ私は自分のつま先を見つめていた。

やがて、彼が静かに口を開く。
「お前は……当日は本隊と共に行くんだったな」
「うん。カーフェイは……」
「俺は別だ。出陣も本隊より早い」
流影騎士団ならばきっとそうだろうと思っていたので、驚きもなく「そっか」と相槌を打った。

一緒に行かれるとは思っていなかったけど。
それでもこうして本人の口から聞くと、やっぱり寂しいと思ってしまう。


「……お前は逃げ出したくはないのか?」


「え?」
「お前が戦いを離れて日常に戻りたいと願っても、きっと誰も責めたりはしないだろう。いや、むしろそれをこそ望んでいる者も少なくはないと思う」
少し彼らしくない問いかけに驚いたけど、私はすぐに首を横に振った。
「逃げたいとは思わないよ。私が怖いのは戦いそのものじゃなくて、みんなを失うことだから……」

戦場の凄惨な光景は、今だって思い出せば震えそうなほど怖いけど、それは騎士団に属している自分も負うべきものだ。
決して目をそらそうとは思わない。

「何ができるかわからないけど、それでもみんなと一緒にいたいんだ」

「……お前は、強いな」
ぽんぽん、と、優しくて大きな手が頭に乗る。
そのままくしゃっと撫でられて、「そんなことは……ないよ」とかもごもご言いながら、顔が赤くなってしまうのを隠すようにうつむいた。


「俺は、お前に生きていて欲しいと思っている」


すいと手が離れて、彼は一歩踏み出して空を見上げた。
だから、カーフェイがどんな表情でそれを言ったのかはわからなかった。

「わ……たし、に?」

「俺にとっては革命の成功がスタート地点になるのだろう。まだどんなものが理想の世界かなんて具体的にはわからんが……」
そこで、言葉を止める。
私は何故かとても緊張して、息を止めて続きを待った。


「そこに俺が存在していようといなかろうと、お前がこの戦いを生き延びて、どこか良き地で幸せそうに笑っていたら、それが……俺にとっての勝利だと、そう思っている」




       どうして。

この人は何故、こんなことを言うんだろう。
何故私なのかと聞きたくて、
………やっぱり聞けなくて。
胸が詰まって悲しくないのに泣きそうになる。
口を開いたら何かが溢れてしまいそうで、ぎゅっと唇を噛んだ。




「勝手なものを押しつけるなと怒ってくれてもいいんだぞ」
突然こんな話を振って悪いな、と自嘲気味にこちらに視線だけを向けた彼に、首を振る。

「でも」

私は、彼の服の裾をぎゅっと掴んだ。
まるで縋るように。
…どこにも行かないでと引き留めるように。


「だったらカーフェイも無事に戻ってきて」


顔を上げることはできなかった。
笑える自信はないから。
声が震えないようにするので精一杯で。


「カーフェイがいなかったら、レヴィアス様がどんな理想の世界を作ろうとも、心の底からなんて笑えないかもしれない。私が幸せじゃなかったら駄目なんでしょ?だから……」




風が吹き抜けた。
乱れる髪を押さえることもできず、ただ立ち尽くす。

「……わかった」

やがて静かに、上から落ちてきた声。
カーフェイが振り向いたので服から外れてしまった手を寂しく思う間もなく、抱き締められる。
心臓が一つ大きな音を立てた。



「俺の勝利と、お前の幸せのために、力を尽くそう」



こうしてくっついていなければ聞こえないくらいの小さな声で。
生還ではなく、努力するという約束が彼らしくて。


聞きたいことがあった。
伝えたいこともあった。
でも、それを言葉にするのは今ではない気がした。
だから、微かに頷いて、ただその背をぎゅっと抱き締める。


どうか、私の大切な人たちが無事でありますように。

こんな感傷的な気分を笑い飛ばせる日が来ますように。

ただ、それだけを祈った。










革命の日。
順調だった作戦は、たった一人の裏切りによって歯車を狂わせ、騎士団は窮地に追い込まれた。
とにかく皇帝を倒せばと王宮内部に突入したけど、激しい戦いで騎士団長たちも次々に命を落とし、私とレヴィアス様がヴァーンに追いつめられる。
私は土壇場で魔導の力を覚醒させたけど、修練を積んだわけでもない付け焼き刃がいつまでも通用するはずもなく。

力つきて倒れそうになったとき、ルノーの声が聞こえた気がして。

白い光に包まれた私は、最後の力を振り絞ってレヴィアス様を空間転移させた。
どうか生きて、復讐を捨ててもいい、幸せになって欲しかった。
敵陣のただ中に一人になって、私の体も限界を迎えて崩れ落ちた。

きっと私はこのまま捕らえられて殺されるんだろう。
その覚悟はとうにできている。
それでも、死にたくないと思った。
だってカーフェイと約束したんだ。

あの厳しい眼差しが和らぐ瞬間だけが鮮烈に脳裏によみがえる。
もはや体には何の感覚もなかったけど、それだけで少し幸せな気分になった。


「……カ………フェイ……わたし……」




あなたのことが、好きだよ。




強い意志を秘めた深紅の瞳も、静かに、だけど力強く紡がれるその声も。
抱き締められたとき、このまま時が止まってしまえばいいって思ってた。


ずっと自覚してはいけないと思っていた気持ちを素直に想えたことに満足して。


         私の意識は深いところへ沈んでいった。













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