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キーファー×テレサ。
共通ルート3章あたりの話です。
















「銀に煌めいた優のターコイズ」




その時騎士団は惑星デューンに滞在していた。
襲撃を受けた野営地からアルダーの首都タリッサに拠点を移し、豪華すぎる城館に私達が落ち着いたばかりの頃。


買い付けの任務で街に出た私は、思いの外早く終わったからと、少しだけ散歩をしてみることに決めた。
知らない場所を一人で歩くのはちょっと怖いけど、見たことのないものがたくさんあるのはとても楽しい。

「(あ………すごい、綺麗)」

大きな通りをぶらぶら歩いていて、ふと足を止めたのは陶器のお店だ。
ショーウィンドウに並んでいるのは、シンプルだけど精緻なデザインが美しい、薄く繊細なティーカップ。
青緑のラインが印象的だ。
「(いつもこういうカップでお茶を飲めたら素敵だな…)」
値段は見るまでもなく高級品だろうけど、悲しいかな高い安いに関わらず小さい頃からウィンドウショッピングをするしかない人生を送ってきた私には、何でも見るだけで満足する癖がついているので特に問題はなかった。
綺麗な物は、こうして見るだけでも楽しい。

「(それに、最近は見るだけならいくらでも日常的に高級品を拝めるしね……)」

騎士団長たちはそれぞれマイカップが決まっていて、こだわる人はラウンジの食器棚に何種類も置いてあったりする。
そしてそれらは触るのが怖いような高級品ばかりだ。
私はもちろん、割れても失くしてもいいように安くて丈夫なカップを使ってるけど。




「……娘、何故お前は営業妨害を?何かこの店に恨みでもあるのですか?」




つい長々と鑑賞していたら、唐突に背後から訝しげな声をかけられた。
ぱっと振り返れば、呆れ顔のキーファーが私を見下ろしていて、慌てる。

「う、恨みなんかないよ!ただ、このカップが綺麗だなって思ってちょっと見ていただけ」


うわあ……まずい人に見つかっちゃったなあ。
仕事の帰りにちょっと散歩、なんて言ったら絶対何かネチネチと嫌味を言われそう。


でも、キーファーはどうやら私よりもお店の方に興味を引かれたらしく、背後のディスプレイを見て「ふむ」と目を細めた。
「お前のような下賤の者には物の価値などわからないでしょうが……そうですね、これはなかなか悪くないカップですね。美しいターコイズだ」
「下賤の者」だとか「身分の低い小娘」とかいういつもの枕詞は華麗にスルーすることにして。
……彼のお眼鏡にかなう物に目を引かれたことが少しだけ嬉しい。

でも、油を売っていたことを突っ込まれると面倒だし、矛先がこちらに向く前に帰ろうと、「じゃあ私はこれで」と私が口を開くより先に、


「少々、ここで待ちなさい」


そう言い残したキーファーは、店に入っていってしまった。

「(……いつもながら強引だなあ……)」

ぽつんと店先に一人残された私は、小さくため息をついた。
彼が何故この辺りをうろついていたのかは知らないけど、たまたま遭遇しただけ(…だと思う)の私にまだ何か用があるのだろうか。
せめて、一言くらい「まだ話があるから」とか付け足してくれてもいいのに。

内心でぶつぶつ文句を言いながら渋々待っていると。
しばらくして、キーファーが店員さんに恭しくお辞儀をされながら店から出てきた。
そして私の前に立つなり、

「持ちなさい」

今まさにお店の人に渡された袋を、押しつけた。
有無を言わせぬご命令に、思わず受け取りながら、聞いてみる。
「あの……これは?」
「私の買い物ですが、何か?」


何故、キーファーが買った物を、私が持つのかというところを聞きたかったんですけどね……。


まあ、彼からすれば私は使用人みたいな認識なんだろうから、不自然じゃないのかもしれないけど。
まさか荷物を持たせるために待ってろって言ったの?と怒るのを通り越して呆れていると、今度は「行きますよ」といきなり歩き出すので、慌ててそれに続いた。
そして帰り道とは違う方角なんだけど……どこに行くのかくらい言ってくれても以下省略。


私は色々なことを諦めて、キーファーに付き合うことにした。(他に選択肢がなかっただけとも言う……)


さっさと歩いていってしまうキーファーの背中を必死に追いかける。
追いかけ疲れてきた頃、大通りに面してはいるんだけど、ただ歩いているだけでは見落としてしまいそうなどうやらカフェらしきお店に、彼は扉を開けて入っていってしまう。
ちょっと躊躇ったけど、帰っていいとも言われていないし、私もそれに続いた。


中は品のいい落ち着いた調度で統一されていて、私が思い浮かべるお気軽なカフェとは違う、明らかに格式高い場所だった。

「(わ、私本当に一緒でいいの……?)」

キーファーはこういうところにぶらっと入っても何の違和感もないけど、私はあからさまに場違いな気が……。
人数を確認された時に頭数に入っているようだったからなんとか逃げずに留まっていられるものの、ピシッとして一分の隙もないウェイターに恭しく椅子を引かれてものすごく恐縮してしまう。
慣れないシチュエーションに私があたふたしている間にキーファーは私の分までオーダーを済ませてしまったらしい。
けど、今はむしろその強引さがありがたかった。
……値段を見たら注文する物をすごく悩んでしまったと思うし……。


緊張しきって堅くなっている私を見て、キーファーが可笑しげに口角を上げた。
「せっかくのアフタヌーンティーです。もう少しくつろいではどうですか?」

相手がキーファーだし無理だよ!!

……という本音はしまっておくとしても。
ここに私を連れてきたキーファーの意図も全くわからないし、どうくつろげばいいのかもよくわからなくて、否定のような肯定のような曖昧な返事をした。


少しして、お茶が運ばれてきた。
上品で優美なラインを描くカップに澄んだ朱が注がれる瞬間、ふわりとシトラスが香る。
ほんの少し花の香りも混じっているそれは、夏に木陰で感じる風のように心地良い。
続いてサンドイッチがテーブルに運ばれる。
「(ほんとにアフタヌーンティーだ……)」
白いクロスの上を彩る、優雅な光景に一時緊張を忘れた。
キーファーに「お上がりなさい」と促されてまずはお茶に口を付ける。

「あ……美味しい……」

自然に、言葉がこぼれてしまうくらい、美味しく入っている。
香りは深いのに決して苦くはない。
どうやったらこんなに美味しく淹れられるのだろう。
私もゴールデンルールに則って淹れているのに、自分で淹れた物を飲んでもこんな風には感じない。
茶葉が高級だから?
……でも、騎士団で買っているお茶は基本的にブランドものの高価な茶葉ばかりだ。
やっぱり淹れ方が悪いのかなあ……?

首をひねりながら、ふと引き寄せたソーサーの上に乗った銀のティースプーン。
シンプルだがピカピカに磨かれていて、上品なティーカップにとてもよく馴染んでいる。

「(綺麗だな……)」

船のラウンジの食器棚にも銀製のティーセットがあるけど、それこそきちんと毎日磨いてくれる執事なんかいないので、こんな風に輝いてはいない。
若干埃を被っているそれらを見て、日用品としては実用的じゃないよね、なんて思っていたけど、やっぱりこうして実際に使ってみると、見た目にも綺麗だし、具合もいい。

つまんだサンドウィッチもとても美味しくて、そこで私はようやく周りを見る余裕がでてきた。
何組か座っている私たち以外のお客さんは、もちろん身なりのいい上品な紳士淑女なんだけど、和やかに談笑していて堅苦しい雰囲気はどこにもない。
とても、気持ちのいい空間だった。
それがわかると、目の前にいるのがあのキーファーで、しかもあからさまに私なんかには敷居の高いお店だというのに、なんだか肩の力が抜けて、この時間を楽しもうという気分になってきた。

キーファーもくつろいでる様子だし、少しくらいは打ち解けて話ができるかもしれないと、勇気を出して口を開いた。
「そういえば、さっきは何を買ったの?」
「気になるなら開けてかまいませんよ」
カップ片手に気のなさそうな返事。
教えてもらえないかもとも思っていたから、開けてもいいなんて意外な返答にちょっと驚く。
他人の買ったものを開封するなんて子供のようで気が引けたけど(他にも「まさか本当に開けるとは」ってあとから文句を言われたりする罠だったりとか)、好奇心に負けて綺麗な包装を解きはじめた。




箱の蓋を開けた私は、一瞬言葉を失った。




「これ……」

出てきたのは、さっき店頭に飾ってあった……私が見ていたのと同じティーカップだ。
思わずキーファーの顔と自分の手元を交互に見比べる。
「お前が使っているカップはあまりにも貧相で見るに耐えませんから。気に入ったというのなら、それを使うといいでしょう」
「え……でも」
こんな高価なもの、と言いかければ、彼は神経質そうに片眉を上げた。
「お前は何か勘違いしているのではないでしょうね。店頭で見て悪くないと思ったので「私が」「自分のために」買ったのですよ」
「う、うん!もちろんわかってるよ!」
釘を差されてガクガクと頷く。

「いくら時間と金をかけて高名な職人に室内装飾をデザインさせようとも、安物のカップ一つでその美観は台無しになります。納屋のような家で寝起きしていたお前にはわからないかもしれませんが、我が騎士団で生活している以上、少しくらいは気を遣いなさい」
「…………はい」
すごく不本意そうな顔でネチネチとお説教をするキーファー。
相変わらずの失礼極まりないお言葉の数々だったけど、今は腹が立たなかった。


だってこれ、「キーファーが自分のために」だったにしても、

…でも私に買ってくれたもの、なんだよね?


ありがとうと言いたかった。
でも、言えばきっと「お前の為ではありません」って怒るんだろう。


「あの……だ、大事にするね!」
なんて言おうか迷って、ようやく思いついた言葉だったんだけど。
……やっぱり眉を顰められてしまった。
「当然です。…私の物なのですから。取り扱いには細心の注意を払いなさい」


それきり、キーファーは黙ってしまう。
私は言葉を探して、やっぱり見つからなくてお茶を一口飲んだ。

サンドイッチがなくなるとスコーンが運ばれてくる。
熱いスコーンを割り、その上にクロテッドクリームとルビー色のジャムを乗せるキーファーに倣って、私も焼きたてのスコーンを手に取った。
「(黙っていれば、かっこいいのにな……)」
彼が長い指先で器用にティーナイフを繰る動作は洗練されていて、つい見とれてしまう。

視線に気付いたらしく「何か?」という表情をされて慌てて言葉を探した。
「美味しいね」
「……まあ、この店はお茶もティーフードも、なかなか悪くはない物を出すと思っていますよ」

素直に私の言葉に賛同して、お茶を飲んで満足そうに目を細めたキーファー。
今日は口数(嫌味)も少なく、いつもと少しだけ違う雰囲気だ。
意外だと驚いてもいいはずなのに。
柔らかな日の差し込むラウンジで、清潔なクロスの上に並ぶ磨き込まれたカトラリー、それらに囲まれ繊細な造りのカップを傾けくつろぐキーファーを見ていると、これこそが彼が望んでいる自分の姿なのかな、などという勝手な想像が浮かんできた。
とげとげしいいつものキーファーよりもしっくりくるような気がして。

何でそんなことを思ったのか。
そうであったらいいと思う、ただの願望なのかもしれないけど。
そんなことを考えながら、私は思いがけない午後の優しい一時をたっぷり楽しんだ。











数日後。
私はいつものようにお茶を淹れていた。

彼の気に入りの茶器に注ぐ、香り高いフレーバードティー。
ラウンジでくつろぐキーファーに差し出せば、彼は短く素っ気ないお礼を言って受け取り、また手元の新聞に目を落とした。
私は少し離れたソファに座り、同じポットから落としたお茶を飲みながら、仕入れのリストに目を通し始める。

彼と私の手元にあるソーサーに乗った、ピカピカに磨かれた銀製のティースプーン。

私も日々の仕事で忙しくて、ティーセットすべてを磨くことはできなかったけど、スプーン一つでもずいぶん違って見えた。
キーファーが好んで使うティーカップには、やっぱり上等な銀製品がよく映える。

ふと顔を上げた彼が、私の手元に目を留めた。

そこには、キーファーが私に「使ってもいいと許可をくれた」ティーカップがある。

軽く目を細めただけで彼は何も言わなかったし、私も言うべき言葉は見つけられなかった。


……ただ、一生懸命磨いたティースプーンから、あの日嬉しかった気持ちが、ほんの少しでも伝わることだけを祈っていた。













◆後書き的な何か◆

キーファー、お前はルートに入る前にもう少しテレサのフラグを立てておけ。

……という話です。
この時期にはもうとっくにキーファー側のシークレットフラグはMAXですから、そんな内心がはみ出さないように書くのが一苦労でした。
あ、シークレットフラグっていうのは岩城の脳内のフラグ、つまり妄想ですね。(痛)

まあ究極言えば、キーファーに限らず異性であれば既婚者でもない限り、テレサをお嫁さんにしたいと思わない理由がないですよね。
良物件すぎるテレサのポテンシャルには美少女が世界の宝な岩城のセンサーもオールスタンディングですとも。
うん、自分でも何を言ってるのかわからなくなってきたよ。

テレサは負けず嫌い的な精神から、「キーファーはどうすれば満足してくれるんだろう」って考えてるうちに、自分のフラグも相手のフラグも立ててしまったんだと思います。
両想いなのはわかったからふたりとも早く結婚しろ。

ちなみにさる喫茶店に入って、美しい銀器に感動したから書いた話でもあります。
よってティーの描写が無駄に濃くて失礼しています。
だって紅茶大好きだからさ!!
すみませんほんとこのブログお茶してる人ばっかりで。
紅茶党よ増えろと願いつついつも書いています。











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