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カーフェイ×テレサ。
捏造カーフェイルート第二話。












「灼きついた、一瞬の」




その日は少し風の強い日で。
あの時船が停泊していた場所のすぐ近くには、満開に咲き乱れる花畑があった。
いい陽気だったのでラウンジの窓を開けた拍子に、その花びらが吹き込んできて。
舞い踊る花びらを綺麗だな、って思ったその時。


「…ああ、美しいな」


たまたま窓の近くの椅子でお茶を飲んでいたカーフェイが、そう言って目を細めた。
私に、というよりは自然とこぼれるように。

厳しい人だと思っていたのに、この瞬間は表情も声音も驚くくらい柔らかくて。

その一瞬が私の脳裏に灼きついた。

それまで、戦いに関係すること以外に興味を示したのを見たことがなかった彼と、同じものを見て同じ気持ちを抱いたことがなんだかとても嬉しかった。
変化はほんの一瞬で、私が同意するよりも早くカーフェイはいつもの表情に戻ってしまったけれど。


……もう一度、
       もう一度あの瞬間を見たくて。


その日から私は、騎士団長達が集まっているのを見かけると、ついカーフェイの姿を探すようになってしまった。




「誘う相手がいなければ付き合うぞ」
だからそれは、願ってもない申し出だったんだ。


休暇の前日に私を呼び出したカインは、休暇にかかってしまうが、と申し訳なさそうに一つの任務を言い渡した。
それに誰か一人同行者を選んで欲しい、と言われたのでつい素直にカーフェイを指名してしまって。(もちろん、他にもカーフェイを選んだ理由は色々あったけど)

突然で変に思われなかっただろうか、休暇中なのに迷惑じゃなかっただろうかと、とても心配だったから、帰り道にカフェに寄ろうって言ってくれて、こんな風に休暇の約束までしてもらえて、すごく嬉しかった。
ついかぶりつきで「是非!」と乗り出したら驚かせてしまったみたいだったけど、でも本当に嬉しかったんだ。


カーフェイはいつでもいいと言っていたから、まずは休暇中にやろうと思っていたことを片付けてから、と決めて、翌日は部屋の掃除と私物の整理を……、
と、思っていたんだけど。


「お姉ちゃん、山の方に湖があってね、景色がすっごく綺麗なんだって!行ってみようよ!」
……そんな感じで、ルノーとユージィンとハイキングに行ったり。


「よう、嬢ちゃん!これからウチの奴らとウォルターを連れて海に遊びに行くんだが一緒にどうだ?」
なんてゲルハルトに誘われたり。


「主星の貴族達の間で人気の楽団が今キュリアを訪れてるんだよね。で、そのコンサートチケットが何故か一枚余ってるから一緒に行かない?ディナー付きだよ。払うのはキーファーだけど」
そんな流れでジョヴァンニとキーファーとオーケストラを聴きに行くなんて優雅な一日を過ごしてしまったり。


「街で大きな古本市があるようなのでショナと行くのだが、テレサ、君もどうだ?屋台なども出ていると聞いたぞ。なかなか賑やかな催しのようだ」
…みたいにカインが声をかけてくれて、ショナと三人で街に出たり。


こんな具合に驚くくらいみんなからお誘いを受けて慌ただしく毎日が過ぎて、それが途切れたのは休暇が終わる三日前。
今日こそはと当初予定していた整理を手早くすませて。
カーフェイを探して明日の予定を聞いたらOKをもらえた私は、自分でもちょっとはしゃぎすぎと突っ込みたくなるほどわくわくしながらベッドに入って、眠れなくて何度も寝返りを打って、やっと訪れた次の日。




カーテンから差し込む太陽の光が今日もいい天気だと教えてくれる。
さわやかな気分で窓を開けた瞬間に、それは訪れた。


「っ………!」


何か…そう、魔導の気配を感じて、その方角を見る。
レヴィアス様のものでも、ルノーのものでも、敵の邪悪な気配でもなかった。
目を凝らしても視界にはなだらかな山が広がるばかりで、何の異常も感じられない。
「(……気のせい……だったのかな)」
気配はそれきり途絶えてしまったけど、それで安心できるかどうかなんて私に判断できるはずもなくて。


報告するべきかしないべきか。
言えば誰かが調査に向かうのだろう。
……でも今日を含めてあと二日しかない休暇をつぶして調査をして、私の気のせいだったりしたらその人に申し訳ないし…。


悩みながらも結局誰にも言わず、身支度をすませてカーフェイと待ち合わせた船の入り口に向かった。
彼は既にそこにいて、腕組みをして壁にもたれ掛かっている。


おはよう、と声をかけようとした瞬間。
またあの感覚が、今度はもっと強烈に襲ってきて、目眩がして頭を押さえた。


私の様子に気付いたカーフェイがすぐにこちらに近づいてくる。
「……テレサ、どうした。具合が悪いのか?」
「あっ……カーフェイ、あの」
「顔色が悪いな。無理をすることはない。今日は…」
私は慌ててカーフェイの袖を引いた。
「ち、違うの、実は……」

特に隠すようなことでもないし、素直に全てを話した。
気のせいだったら悪いと思ったので誰かに言うのをためらったところまで、全部。
すると、私の話を聞き終えたカーフェイは、

「…ならば、俺たちで調べにいくか」

そんな提案をしてくれた。
「えっ、いいの?」
「行ってみて危険そうならばすぐに兵を呼びに戻る。何事もなければそれでよし。カフェに連れていく約束は果たせなくなってしまうかもしれないが、「誰かの休暇をつぶしてしまうかもしれない」というお前の懸念は解消できるだろう」
「あ……!ありがとう、カーフェイ!」

またもや任務みたいなことにカーフェイを付き合わせてしまうことは心苦しかったけど、こんな風に私の気持ちまで気遣ってくれる彼の優しさが素直に嬉しかった。

「一応、細心の注意を払うが、危険にさらされる事態もありうるからな。心構えと、あとそういうときは絶対に俺の指示に従ってくれ」
「うん、わかった」
そして私たちは調査に出発した。










私の少し頼りない誘導で山道を歩いていく。
魔導の気配が強くなってきて、「だいぶ近いかも」とカーフェイに告げようとしたその時、彼が低い声で「止まれ」と私を制した。

「人の気配がする」

かすかに聞き取れるくらいの声で短くそう告げて、私を背中にかばうようにして周囲を窺う。
やっぱり敵だったのだろうか。
にわかに緊張が走った、が。



「ねえ、お兄ちゃん、やっぱりやめようよ」
「お前ここまできて怖じ気付いたのか?お化けなんて本当にいるわけないだろ」
「でも……おとなのひとが、ここにはちかづいちゃいけないって」
「ここまできたけど何も起こらないじゃないか。大丈夫だよ。怖いならお前は帰れ」
「い、いっしょにいくよお…!」



軽い足音に高い声。
見れば、岩肌に空いた洞窟の入り口に、どうやら兄妹らしい子供が二人。
少々予想外の展開に、私とカーフェイは顔を見合わせた。
「……子供か……」
「このあたりに住んでる子かな?」
「わからんが、あまりいい状況ではないな。あの二人の他に人の気配は感じられないが、まだこの場所が安全と決まったわけではない」
「帰るように説得した方がいいよね」
カーフェイは少しの逡巡のあと、「そうだな」と頷いた。

「魔導の気配は?」
「たぶん、今あの二人が入ろうとしてる洞窟の中からじゃないかな」
「ならば尚更急がなければな」
私たちが同時に二人の前に姿を現そうとした、そのとき。




「あっ!」




魔導の気配がはじけて、


「どうしたテレ          


ものすごい音がして、地面が揺れた。




「お兄ちゃん!!!」




女の子の悲鳴に振り返ったときには、もう。
落盤で洞窟の入り口はふさがっていて。

「っ……!」
「大変……!」
私たちは落盤の衝撃で倒れてしまった女の子に駆け寄る。
「大丈夫?どこか痛いところは?」
助け起こすと、彼女は泣きながらも首を振った。

「で、でも……っ、お、お兄ちゃんが……!」

「もう一人は中か…!」
カーフェイが苦々しく、塞がってしまった入り口をにらみつける。
巻き込まれていたら助からない。
恐ろしい想像に背筋が冷える。

「おい、お前の兄の名前は?」
「レニ……」
「おいレニ!!意識があれば返事をしろ!!」

カーフェイが洞窟に向かって大きな声で呼びかけると、何度目かで微かに、「たすけて」と声が聞こえた。

声の聞こえてきた場所をよく見ると、折り重なった岩が絶妙なバランスで支え合ってできた、小柄な人なら通れそうな隙間がある。
私たちは期待に顔を見合わせた。
そこに移動して声をかける。

「怪我は?動けるか?」
「う、うん……!」
「どこか光が射し込んでいる場所を探せ!そこから出られないか試してみるんだ」
「穴は見えるけど、そこまで行かれない…!」
「どうしてだ」
「見えない壁みたいのがあって、そっちに行かれないんだ」

その言葉に私は思い当たることがあって、カーフェイの袖を引いた。
「……さっき魔導の気配が弾けたの。もしかして……」
「罠か……」
厄介な、と彼が眉を顰める。

「お兄ちゃん…でられないの?」
私達の深刻な気配を察してか、女の子が泣きそうな顔でスカートを握った。
大丈夫、必ず助けるからね、と安心させながら私は考える。


今の私にできることは何か。
皇帝軍の無差別攻撃で焼けるタリッサの街を思い出す。
私は魔導を察知する力を持っているのに、何の役にも立てなくてとても悔しかった。
もう誰の命も失われて欲しくないと、強く思う。



「……………私、入れないかな」



「何だと?」
「少し狭そうだけど、通れるかもしれない。魔導の罠なら私に何かできることがあるかもしれないし、ちょっと入ってみる」
「通っている間に崩れる可能性もあるんだぞ?まずは応援を呼んだ方がいい」
あまり賛成はできない、という反応は予想していた通りだったけど、私も引く気はなかった。
「もしこの穴も塞がっちゃったら、中にいる子はもっと怖い思いをすることになるよね。そんな時側にいてあげることもできるし」

決意を覆すことはできないと思ったのか。
結局、カーフェイは折れてくれた。

カーフェイは「気休め程度だが」と、持っていた数少ない道具で入り口を補強した。
私は彼の指示通り体にロープを巻き付け、小さな穴へと入る。
言い出しておいてそもそも入らなかったらどうしようという心配は杞憂に終わりほっとしたのも束の間、ぱらぱらと落ちてくる石に、あまりゆっくりしていては本当に危険だと思い知る。

「……って、ちょ……っここ狭、い……!」

最近食べ過ぎだったかも。
…少し控えよう。

ひっかかりながらそれでもなんとか進んでいくと、広い場所へでた。
中心が薄ぼんやりと明るいので一応周囲が見える。
身を起こすと、不安で泣き出しそうな顔のレニ少年がいて、私はできるだけ明るく挨拶した。
「ええと……こんにちは!」
「お姉ちゃん……誰?」
「私はテレサ。君はレニだよね。……入り口が崩れる前、どんなことがあったか話せる?」
少年は力なく俯いて、首を横に振った。

「どんなって……わかんないよ……。ただ、ここまで走ってきて、この宝石に手をついたんだ、そうしたら、すごい音がして、入り口が……」

「そっか……」

やっぱり部屋の中心にあるその石が魔導石みたいなもので、罠だったんだろうな……。

考えながらレニに近寄ろうとすると、壁にぶつかった。
「ああ……これがさっき言ってた壁だね」
「うん……」
見えないが確かに存在している壁を、さわってみる。
これ自体からは魔導の力は感じない……と、思う。
何か複雑な仕掛けだったりしたらお手上げだなあとか考えていると。

「僕、でられないの?」
少し低い位置から不安そうな声が聞こえてきて。
「(わあ、泣き出しそうな顔が妹とそっくり…)」
なんて考えている場合ではなく。
少年を安心させようと、慌てて笑顔を作った。

「大丈夫、絶対出られるようにするから。お姉ちゃんを信じて!」

「………………」
自信たっぷりに胸を張ってみたけど、今度は訝しげな顔を顔をされてしまった……。
ま、まあ頼りがいがあるように見えるとは自分でも思っていないけど……。
しかもショナのように魔導石に詳しいわけでもないし、どうしたらいいのかなんて皆目見当もつかないわけだけど。

しかし凹んでいる暇はない。
行動を起こすとしたら、きっとあの魔導石のようなものに対してするのが一番有効だと思う。
何かわからないかと、じっと目を凝らした。
そういえば、あの光り方は魔導の力が満ちたときの魔導石と様子が似ている。

……たとえば。
蓄えきれないくらいの量の魔導の力が注がれた場合、魔導石はどうなるのだろうか。
何ともならない?それとも……壊れる?
ひょっとしたら取り返しのつかないことになるかもしれない。

……でも。

落ちてくる砂が、ここは安全ではないと急かしている。
やってみよう。


「レニ、その石から離れて、こっちにきて」
彼は不安そうながらも、素直にその指示に従ってくれた。
一瞬でもいい。
この見えない壁が無力化する瞬間があれば、万が一また落盤が起きても私がかばってあげられる。


レヴィアス様に教わったことを思い出しながら、集中する。
壁のことと石と距離があることが少しだけ心配だったけど、絶対にうまくいくイメージを何度も重ねて。



手をかざしてありったけの力を注ぐと、一瞬洞窟内が強い光で照らし出された。



そして、ピシッという音が響き。

石が、割れた。


そこからは何の力も感じない。


「お姉ちゃん今のは…………?……あ、壁が!!」
レニが突き出した手が、こっちに触れる。
その手を引き寄せて、少年を抱きしめた。


よかった……うまくいったんだ!
飛び散ったりもしなくて本当によかった……。


「レニ、すぐに出よう、ここは危ないから」
「う……うん!」
魔導石が壊れたから暗くなった洞窟内で、私は手探りでロープを外して、レニに結び直した。
「いい?とにかく明るい方に向かって進んで。ゆっくりでいいから、焦らないで、静かにね」
彼は私の言葉に素直に頷いて、光が差す穴に入っていく。
私もすぐにその後に続いた。


距離としては大したものではないはずなのに、とても長く感じる。
カラカラ、という少し大きい石の崩れ落ちる乾いた音に、心臓が大きな音を立てた。
やがて、




「外だ!!出られたよお姉ちゃん!!」




という声が聞こえて安堵した、その時。




「テレサ急げ!腕だけでもいい!!穴の外に!!」




カーフェイの切羽詰まった声がして、私は反射的に、とにかく出られるところまで這い出して腕を伸ばした。
力強い腕に、脳がぶれるほど勢いよく引っ張られる。


「っ……………!」


そのまま倒れ込めば、背後で再び岩の崩れる大きな音。
あとちょっとでも遅かったら危なかったんだと思うと、大きな安堵感に包まれる。
「あ……危なかった……」
「………本当にな」

聞こえてきた声が至近で、倒れ込んだのは引っ張ってくれたカーフェイの上だということに思い至る。
そして、彼のお陰で無事だったことも。

「あっあの……ありがとうカーフェイ」

命の恩人を下敷きにしてしまったのが申し訳ないのと、距離の近さに慌てて離れようとすると、逆に強い力で抱きしめられた。


「か、カーフェイ……!?」


「……無事でよかった」


大きく息を吐き出した彼から伝わってくる鼓動は、すごく早い。
「(カーフェイ……)」
突然のことに驚いてやり場をなくしていた両手をその背に回した。


いつも冷静な彼がこんなに心配してくれた。
不謹慎だけど、そのことが私の胸を熱くする。
優しい温もりががんばったことへのご褒美のようで、私は少しだけその時間に甘えてしまった。










それから子供たちを家の近くまで送って。
笑顔で手を振って、その姿が見えなくなって、ああ、みんな無事で本当によかった、なんて思った途端。

「テレサ!?」
「あ、あれ……安心したら、なんだか」


かくんと力が抜けてしまって、私はその場に座り込んでしまう。


「どこか痛めたのか!?」
「ううん、そうじゃなくて」
今頃になって、一歩間違えば下敷きだったんだっていう怖さと、みんな無事でよかったって安堵感がない交ぜに押し寄せてきて、

……腰が、抜けてしまった。

私の説明を聞いたカーフェイが、一瞬目を丸くして、そしてがくりと頭を垂れた。
その微妙な間に、あんなに自信たっぷりに穴に入っていったのにこんなざまで呆れられてしまっただろうかと不安になっていると、




「まったく……お前は」




……………………あ。




顔を上げたカーフェイの表情が、舞い込んできた花びらをみて目を細めたあの時と重なって。
そのモーションに目を奪われた。

でもそれを見ていられたのは一瞬だった。



何故なら、突然私の視線の高さが変わってしまったから。



何があったのかって。
現状を認識すると、なんとカーフェイに抱き上げられていて、ものすごく慌てた。

「えっ、か、カーフェイ!?」

「立てないんだろう?ここに座り込んでいると人目に付く。少し移動する間我慢しろ」

それにしても突然すぎるし先に言って欲しかったとか何か色々言いたいこともあったんだけど。
恥ずかしい気持ちが全てを上回ってしまって。
「…………うん…………」
小さく頷いて、大人しくするのが精一杯だった。




さっきの兄妹が住む町へと続く街道を逸れた林の中。
近くに人が住んでいるせいか、木々に囲まれてはいてもあまり鬱蒼とはしておらず、木漏れ日が優しく差し込んでいる。

ちょうど具合の良さそうな切り株を見つけて私を座らせると、カーフェイはあたりの様子を窺った。
「……近くに人の気配はないようだな」
「ご、ごめんね。お手数をおかけしまして……」
「別に謝る必要はないだろう」
「うん………」


それきり会話が途絶える。
言葉を探して何気なく空を見上げると、お日様はもう真上にはない。
「(もうお昼は過ぎちゃったんだ……。そういえばお腹減ったな……)」

そこで私は、マドレーヌを持ってきていたことを思い出した。

「カーフェイ、お腹減ってない?これ食べる?」
腰のポーチから取り出して渡せば、「用意がいいな」と彼が笑った。
「お前の作った菓子か?」
「うん。今朝、ルノーのおやつにって作ったやつの残りなんだ」
「そういえば昼食を食い逃したな」
「慌てて出て来ちゃったもんね」
水筒はお互いに持ってきていたので、マドレーヌと水で少なくも遅めの昼食をとることになった。


「……でも、あの子が無事で本当によかった」
別れ際の二人の笑顔を思い出してぽつりと呟けば。
「お前が救った命だ。よくやったな」
「あ、ありがとう…。私の命の恩人はカーフェイだけどね」
助けてくれてありがとう、とお礼を言うと、カーフェイは「いや……」と何故か眉を寄せた。

「お前を救ったのもやはり、お前自身だ。お前の咄嗟の勘の良さと判断力を信頼しているからつい任せてしまったが、本当は俺が負うべきことだった、と、反省している」
「そんな、反省なんて……!私が勝手にやるって言ったんだし」
むしろ、カーフェイにそんな風に思っていてもらったことがすごく嬉しいというか。


「……もしも助けられなければ、お前はそうして全て自分の所為にするだろうからな。俺の指示で行ったことならば、俺も共に負うことができただろうという話だ」


「……………あ……………」


そんなところまで、考えていてくれたなんて。
「か、カーフェイって……、ま、真面目だよね」
優しいよね、という一言が何故かどうしても出てこなくてそんな言い方になってしまったけど、カーフェイは特に気にした様子もない。
「お前ほどではないがな」ってさらりと受け流されて、かなわないなあって白旗を上げた。




そんな風にしばらく話をして。
私が立てるようになったことを確認すると、「そろそろ戻るか」とカーフェイが歩きだした。
それに続いて見上げた空はもう少しだけ赤くなり始めている。


「カフェに行けなかったのは少し残念だったね」


二人で過ごせる時間が終わってしまうのが何だか寂しくて、ついこぼれた言葉に、カーフェイは足を止めて振り返った。
「……………………」
「あ、ごめんね。そもそも付き合ってもらったのにこんなこと言って」
「いや…………」
一瞬間があって、何だろうと思っていると。


「テレサ、お前は明日は時間はあるのか?」


不意にカーフェイはそんな風に聞いた。
「え?う、うん。休暇中にやろうと思ってたことは終わってるから、特に何の予定もないけど」


「では、改めて誘わせてもらおう。お前の休暇最後の日の時間を俺にもらえないか」


「!い、いいの?明日も付き合ってもらって!?」


          ひょっとして。
ひょっとしたらカーフェイも今日が終わってしまうことを寂しく感じてくれていたのだろうか?
もう少し私と一緒にいたいと、思っていてくれたのだろうか?


「付き合って欲しいと言ったのは俺の方だぞ。……お前が嫌ではなければ、な」
「嫌だなんてあるわけないよ!よろしくお願いします!」
ついつい力を入れて返事をしてしまったら、笑われた。


でもその和らいだ表情が嬉しくて。

ずっと見ていたいのに、

どうしようもなく顔が赤くなってしまって、

それを隠そうと下を向いた。


「どうした?」
「あっ……えっと」
顔をのぞき込まれそうになって、慌てて歩き出す。
「明日は楽しみだなって!何食べようかな……」
「何でも好きなものを食うといい。もっとも、俺はあのカフェの食い物よりもお前が作るものの方が美味いと思うがな」
「ほ、褒めても今手持ちのお菓子は打ち止めだよ?」
思いも寄らない言葉に私は盛大に照れてしまってそんな風に返してしまったんだけど、カーフェイは「それは残念だ」って笑う。

彼の纏ういつになく柔らかい雰囲気が、胸を焦がした。



          ぴたり。



「あ……で、でも」
ふと、嫌なことを思い出して足を止める。
「ん?」
「さっきね、自分ではあの穴を余裕で通れるつもりでいたのに、かなりきつかったの……。痩せなきゃって思ったばっかりだったんだ……」
明日は軽いものだけにした方がいいのかも、としょんぼり頭を垂れれば。

「拍子抜けするくらい軽かったから心配するな」

可笑しそうな声と共に、ちょっと強い力で頭を撫でられた。

そうだ。
さっき抱き上げられたから、私がどれくらい重いのかカーフェイはわかっちゃってるんだよね……。
っていうか、


「拍子抜けするくらいって、私すごく重そうに見えてるの!?」


すごく焦って聞き返せば、「言葉の綾だ」って子供をあやすように、更に頭を撫でられた。
やっぱり少し食事を減らそうと決意をしたものの。


次の日、美味しそうなものの並ぶメニューを前にした私は。
「やっぱり、ダイエットは明日からにしよう」
などと言って、あまり見たことのない、吹き出すカーフェイなどというレアな光景を目にすることになったのだった。
















この日カーフェイと過ごした時間は、すごく楽しくて、私にとって一番の宝物になった。
傭兵団というお仕事が、決して甘いものではない、いつ誰が命を落としてもおかしくないものだと、私にもわかってはいたけれど。
それでも。
どうかまたこんな日が訪れますようにと、強く祈った。















◆後書き的な何か。
他の騎士団長たちの妨害が激しいですね。
……当人達はあんまり気にしてないけど!
攻略対象キャラ達にしてみれば、「ここにこんなにイケてるメンズがいるってのに何が不満でカーフェイ!?」みたいな気分になるのはまあ致し方ないことだとは思います。
ごめんでも水面下の戦い大好きです美味しいですよね!

さて、今回は本編にならって休暇中の洞窟イベント起こしてみました。
「やっとかないと」みたいな気持ちで。
色々とご都合主義だったりぬるかったりしますがそこはさらっと読み流して全体の雰囲気を楽しむいつものスタイルでお願い出来れば幸いです☆(デフォルト丸投げ)

なんか前の話のカーフェイと比べてテレサのフラグ立ちすぎですねすみません。
でも、カーフェイに彼の騎士団の名前とかカラーとかを聞きに行ったときのテレサのカーフェイへの好感度の高さがすっごく気になってさ!!
テレサの方はオフィシャルでフラグなんじゃね?とかずっと思ってた!!
他の騎士団長より断然話が通じるカーフェイを、テレサが好きにならない理由とかあんまりないしね!

まあフラグはともかく、この話ではあんまりカーフェイを活躍させられてないのはちょっと心残りですね。
うん、あの……岩城は頑張ってる女の子がすごく好きです!
野郎より女の子の方がヒーローっぽい方が好きです!!
いつだって誰かのために命を張れちゃう男前なテレサたんが好きです大好きです!!!

そしてゲームの騎士団ルートに沿ってこのまま続きますというか次回もあります。
最後のモノローグ的なのは振りというか。
なんかそういうのです。
ここまできたら(というほど書いてもいませんけども)エンディングまで書けたらなと。
とりあえずやれるところまでやります☆
このテンションだといってしまいそうな気もする……。
魔恋が好きだー!






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