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キーファー×テレサでバレンタインネタ4コマの続きというかまあなんかそんな感じの文章です。
ED後捏造設定過多でしかもオフラインで出した本の設定が有効になっていますが、読んでいなくても特に問題ないくらいだと思いますので広い大らかな心でお楽しみいただければと思います。














甘い眩暈


寝室の扉を閉めれば、そこは外と隔絶された二人だけの世界。
まるでそれがスイッチのように、キーファーの纏う気配がふっと和らぐ。
テレサは自分だけが感じることを許されているその瞬間がとても好きだ。

義弟や義父とにぎやかに過ごした居間を辞してこの部屋に戻る途中、テレサにあてがわれている部屋(…といっても着替えやキーファーが不在の時くらいしか活用されていないのだが…)から取って来た、綺麗にラッピングされた『本命チョコ』なるものをキーファーに渡す。
「今日食べなくても大丈夫だよ」と言えば若干ほっとした様子が見て取れたので、やはり作りすぎたかもと、テレサは『イベント』にはしゃぎすぎたことを少し反省した。

寝室に入ってからの時間の過ごし方は日々色々だ。
そのままベッドになだれ込んだり、夜遅くまで話をしていたり、お互いに別々のことをしていたり。
大抵の場合共通しているのは、互いの体温を感じることのできる距離にいるということ。
革命後に再会できるまで、共に過ごせた時間の少なさを埋めるかのように、心の引力に逆らわずいつも傍らに居る。
別にそうしようと二人で決めたわけではない。ごく、自然にそうなっている。
それを不思議だと感じながらも、テレサはソファに腰を下ろしたキーファーの隣に、やはり何の疑問も抱かずに座った。


「そういえば、来月の14日には男の子の方がお返しをするんだって。お返しは3倍返しが基本らしいよ」
「今日の3倍返しですか……それは大変そうですね」
だからたっくさんお返しを用意してね!と、冗談めかして笑ったテレサの髪を撫でたキーファーは、さして大変そうでもなく軽く答えた。
「ですが、いいでしょう。いただいた以上、形式に則りきちんとお返しをしますよ。それで何が欲しいのですか?」
「えっ?私が言うの?」
「受け取るのはお前なのですから、何かリクエストはないのですか?」
「私の欲しい物……………………」
問われ、咄嗟に何も思いつかなかったテレサは、眉を寄せて考え込んでしまう。

しばしの沈思黙考の後、はにかんだ彼女から口からやけに小さく零れた言葉は。


「えっと、じゃあ、その日は一日側にいて欲しいな……」


「…………………」
何か嫌な沈黙が流れて、テレサはうろたえた。
「えっ、な、何で黙るの!?私何かおかしなこと言っちゃった!?」
まずいことを言ってしまったのだろうかと仰ぎ見た彼の表情は、しかしそれまでと変わらず柔らかく、機嫌を損ねたわけではないことにだけはほっとする。
「いえ……別におかしくは。しかし、最近はこうしてお前の側にいることも多いでしょう。それだけで3倍返しに足りるとは到底思えませんが」
「そ、そうかな…キーファーに側にいてもらえるのは私にとっては十分贅沢なことなんだけど……。じゃ、じゃあヴァイオリンを弾いて欲しい、とか」
「それも普段からしているような気もしますが」
「ううっ……普段から満ち足りすぎている所為で、欲しいものなんて思いつかないよ……」

本気で困っているテレサに、キーファーは呆れたように「……まったくお前は」そして愛しげに目を細めた。
「別にそう特別なものでなくとも、ドレスだとか温室だとか城だとか物品で欲しい物はないのですか?」
「……温室や城は物品に入るのかな……?」

何故そう発言がバブリーなのキーファー。
アンガス様の書斎のある辺りを壊して温室を建てる計画とか呟かないでお願いだから!!

「……だって服とかアクセサリーはキーファーが出掛ける度に買ってきてくれるし……あっそういえば小麦粉がもうなかったかも」
「……………………はあ」
「(……溜息をつかれてしまった……)」
それでもうっかり漏れたお買い物メモ的発言に対し、『それはメイド長に言いつけておくといいでしょう』と真面目に返すキーファーは意外に律儀である。

「うー、き、キーファーだっていつも私が欲しい物とか食べたいものとか聞くと『お前』って言うじゃない。私も同じだよ!」
「まあ、そうですね」
自棄気味な唸りにもあっさりと頷かれて、それ以上何を言ったらいいのかわからなくなった。
テレサよりもずっと大きな手が、穏やかに答えを促すように頭を撫でる。
言葉を待ってくれているのだろうが、触れられた場所から伝わってくる優しさに、逆に幸せで何も考えられなくなってしまいそうだった。


「(キーファーと過ごすこういう時間の他に欲しいものなんて……本当に思いつかないな……)」


大切な人が側にいてくれるということは、テレサにとっては何より特別なことだ。
幼い頃に両親は行方不明となり、預けられた先の老夫婦との生活も長くは続かなかった。
唯一の肉親であることが判明したヴァーンや、戦場でどうなったかわからないルノーとの再会も絶望的だ。
だから、自分を愛してくれる人が無事で側にいてくれることというのは、本当に幸せなことだと、そう思う。
ドレスもアクセサリーも温室も城も、キーファーが居なければテレサにとっては何の価値もないものである。

……とはいえ、何かオチをつけなければこの話題が終わりそうもないのも事実で。

「あ、そ、そうだ!こういうのは、好きな人が一生懸命考えて選んでくれたものを貰うのが嬉しいんだと思うよ!?」
いい加減考えた末に思いついた切り返し。
キーファーもその言葉にはもっともらしく頷いた。
「……ふむ、それはまあ確かに。直接聞くのは少々無粋だったかもしれませんね」

しかしお前は物を買い与えてもあまり喜ばないではありませんかだからわざわざ聞いたのですが……。

「何かを買ってもらえるのはもちろんすごく嬉しいけど……やっぱりキーファーが側に居てくれるのが一番楽しいし嬉しいんだもん…」
不本意そうな呟きにそう返してはみたものの、同じ言葉を繰り返すばかりの自分に、親に仕事に行かないでほしいと駄々をこねる子供のようだと思って恥ずかしくなって語尾が小さくなった。
3倍返し!などと言ったのも、キーファーが少しは焦ったりするかな、という非常に衝動的な悪戯心だったわけで。
「(私……なんだか子供っぽくて嫌だな……)」
キーファーに気を遣わせたかったわけじゃないのに、と俯くと。



「テレサ」



呼ばれた瞬間顎をつかまれ上を向かされた。
突然のことに驚いたテレサの視界に入ったキーファーはなんだかとても不機嫌そうで。
「今の流れで何故そのような落ち込んだ表情になるのですか。私の前でそんな顔をすることは赦しませんよ」
「ご、ごめんなさい」
「まったくお前は甘やかすのは得意なくせに甘えるのは本当に苦手ですね」

瞳の奥を覗きこまれ、あまり見せたくないネガティブな感情まで探り当てられてしまう。
この深く鋭い鳶色の前でテレサが嘘などつけたことはない。

「そんなことは…………あ、あるかもしれないけど……」
「お前がそのような様子では、まるで私が大切な人に頼ってもらえない甲斐性のない男のようではないですか」
「ち、違っ…!キーファーは全然悪くなくて、私が……」
「だから、それが間違っていると言っているのです。別に私が悪いとも思っていませんが、お前も些細なことで自分を卑下するのはやめなさい。お前が自分を貶めると、そのお前を選んだ私の価値まで下がります」
「き、気をつけます……」

尊大とも思える言葉は同時にテレサに対する気遣いでもあって。
慣れないあたたかさに胸が詰まりそうになる。

「お前は何か勘違いをしているようですが、私はお前に遠慮などしていません。だからお前も諦めて甘えなさい。…私ばかり甘えていたのでは不公平ですからね」
「……うん」
テレサは、柔らかく抱き寄せられた腕の中に素直に身を委ねながら、

『やっぱり、これ以上に欲しい物なんてない』

そんな確信を強くしたのだった。




「まあ来月のことは明日から綿密に計画を練るとして……」
しばしの甘い空気の後、ぼそりと呟かれた響きに微妙な不穏さを感じ取って、テレサは慌てて顔を上げる。
「あの、3倍とかじゃなくていいよ?よく考えてみたらキーファーの贈り物のスケールは私の感覚と大分違うし……」
本当に温室や城では困ってしまう。
そんな焦りを知ってか知らずか、キーファーは自信たっぷりに胸を張った。
「問題ありません」
「何が!?何が問題ないのか表記されていないことに一抹の不安が過ぎるんだけど!?」
「当面の問題は本日摂取しすぎたカロリーです」
「話題転換若干唐突だし!…………えっと、やっぱりちょっと多かった?」
「まあ摂った分は消費すればいいことで。責任をとってお前に付き合ってもらいましょうか」
「それはもちろんいいけど……運動とか?」

「ええ、ベッドの中で」

「ベッド?って…………それって、まさか」

意図するところを理解してテレサの頬が瞬時に赤く染まった。
「何か、問題でも?」
少しだけ意味深な指先が頬をくすぐる。
こういう時のキーファーは、強引でないことがむしろ意地悪だと思う。

「………私の作ったお菓子が原因なんだもんね」
「そうですよ」
「じゃあ、うん………責任とって付き合います」
「いいでしょう」

満足そうに頷いた笑顔が、いつかの記憶と重なって。

先に立ったキーファーが恭しく差し出したその手に自分の手を重ねながら、

テレサもまた幸福な笑みをこぼした。









◆後書きというには微妙な長すぎる何か◆
テレサばかりがカロリーを消費することになりそうな気がするこの展開。
いいんだよ馬鹿単なる口実だから。
テレサがキーファーの寝室で寝起きしてるのは常識だよね?
っていうかテレサはキーファーの抱き枕なんですよね?
テレサとくっついてないとよく眠れないみたいな!!
そんなキーファーがいいよ!!(駄目な人全開)
二人がイチャイチャラブラブしていてくれれば岩城はそれでハッピー!!
ごちそうさま!!(まさしく自給自足のこの現状……)

それにしてもラブラブは妄想しているときは楽しいですが、いざ形にするのは照れますね。
というか書き慣れなくてすごい難航しました。内容もだがへたっぴなのも恥ずかしいな……。
岩城さんいつも薄暗い文章ばっかり書いてるから……。

でも、『NEW FRONTIER』では弱ってるかんじのキーファーをずっと描いてたので、
ここで少しキーファーっぽいキーファーを書けたかなと。駄々甘ですが。
やっぱりキーファーは自分が眩しかったり尊大だったりして欲しいですよね!
何でそうなのかって、
それは自分が眩しくいるために並々ならぬ努力をストイックに続けているからで、
水面下でなんか色々必死にやってそうなところがもう岩城の心を捉えて放さない感じです
キーファーってかわいい奴だよね……!!

テレサもすごく真面目で頑張り屋ですが、
キーファーが自発的にそうしているのに対して彼女の場合は
「そうしなければ生きていかれなかったから」という、
他に選択肢のない状況で身についた習慣なわけで、
真面目なところは同じでも根っこの部分が大分違っているような気がします。
キーファーは仕事も遊びも全力っていう人だけど、テレサは『遊び』がよくわからない。

その辺を時に強引に時に優雅に上手くエスコートできるかがキーファーの腕の見せどころなわけで。
キーファーにいいように開は……もとい教育されていくテレサを妄想するとときめきが止まりません。
くっ……なんて美味しくない要素の見当たらないカップルなんだ……!
おかわり!!

ホワイトデーには素敵なサプライズ的なサムシングが待ち受けていることでしょう戦慄しますね。
キーファーって意外とサービス精神旺盛っていうかイベント好きそうだから、
まあまず間違いなく何かは起こりそうです。
庶民の岩城にはキーファー的ゴージャスなホワイトデーなど及びもつかないので
描くかどうかはともかくとして。
またラブはどこに?みたいな4コマとかは描くかもしれませんが。
どこかから聞きつけたアンガス様とニコラスも色々プレゼントしてくれそうです。
みんなのアイドル・テレサたん。
ラブラブもすきだけどファミリーも大好きです。
妄想、止まらず。






 
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