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カーフェイ×テレサ。
捏造カーフェイルート第四話。















「まっさかさま高く飛んだ底の色は絳<アカ>-後編ー」




柔らかい日差しの下で、幸せそうに少女が、
        テレサが笑う。


ああそうか、彼女は幸せになれたのだ。


安堵した俺は風にさらわれて消え失せた。
それでよかった。
その幸福が何によってもたらされたものであろうとも。
ただ、彼女が幸せであってくれること、       それだけが。




『だったらカーフェイも無事に戻ってきて』
『カーフェイがいなかったら、レヴィアス様がどんな理想の世界を作ろうとも、心の底からなんて笑えないかもしれない』




不意に。
全てが消滅する直前、彼女の声が脳裏によみがえる。
あの時、決して弱音を吐くまいとする健気な姿を、素直に愛しいと思った。
抱き締めた細い身体は少しでも力を込めれば折れてしまいそうだが、内には守るべきもののためならば生命の危険をも厭わない強さを秘めている。

戦場以外に自分の居場所などないとわかっていながら、頭の片隅で彼女の隣にいる未来を望む心を自覚し、嘲った。
お前はいつからそんなに未練がましい男になったのかと自問する。
全ては今更だ。




だが、もし。
もしももう一度会えたならその時は。




       俺はその思考を最後に、消滅に身を任せた。















「カーフェイ、……私」















         声が。

聞こえた気がした。
しかし耳をすましても人声など聞こえない。
かわりに、カツン、と。
微かな、だが重い足音を聴覚が拾って、ようやくきちんと覚醒した。
……何か夢を見ていたような気がするが、思い出せない。

薄闇の中、身を起こそうとすると酷く体が痛む。
目前の格子で、処刑の時を待つのみの我が身の状況を思い出した。
足音は遠いながらもこちらに向かっているようだ。
もう、時間なのだろうか。
それにしては外が随分と静かだと思った。

移動中に逃亡を試みるか否かの選択肢が脳裏をかすめる。
あるいは不可能ではないかもしれない。

……だが。

あの時、結局テレサがどうなったのかという情報は入手できなかった。
普通に考えればこの状況で生きている可能性は低いだろう。
あの少女が存在しない世界。
それは酷く色褪せていて、暗い、鈍色の荒野のように思えた。

彼女が居ないのならば、もういい。

……そんな風に思ってしまう自分が可笑しい。
俺はいつの間にそんなに彼女に依存していたのか。
存在理由を押しつけるほどに。




やがて近づいてきた足音が、俺の牢の前で止まった。
格子の向こう側に姿を現したのは、黒いローブをまとった老人だ。
「おまえは……」
この薄暗い中、魔導を察知する能力などない俺にでも、何故かその姿がはっきりとわかるほどの強いオーラ。
テレサの祖父でもある、大魔導師ヴァーンだと直感した。
しかし、それを確認する前に男の抱えているものが目に入る。

「テレサ……!」

激しい戦いでついたものか、汚れた服は所々破け、ぐったりとしたその身には生気がなく、顔色も死人のように白い。
「死んではいない。力を使い果たして眠っておるだけだ」
生きていると聞いて思わず浮かべた安堵の表情を一瞬だけ覗き込んだ老人は、言葉を続けた。

「お主が、カーフェイだな」
「そうだ」
「わしはヴァーン。今度の戦いでは……」
「……皇帝の魔導師であり、その娘の祖父だろう。知っている」


一つ頷いたヴァーンが、牢の鍵を外す。


「………どういうことだ」

「後のことはわしが適当にごまかす。どうか、このテレサを連れて逃げて欲しい」

老人がテレサを連れている時点で想像しなかった事態ではないが……、実際に言われてみるといささか唐突すぎる感が否めない。
「敵として戦いはしたものの孫娘の命は惜しいというわけか」
あるいは、泳がせてレヴィアス様と合流させる策なのか。
探りを入れれば、ヴァーンは、痛ましげに腕の中のテレサに視線を落とした。

「こやつの両親は娘に平穏な一生を送って欲しいと願い、命を賭してテレサが生まれつき持っていた強力な魔導の力を封印したのだ。それを少しでもかなえてやりたい」

家族ならば望んで当然のことだろうが、誰からもそう願われている少女が、これほどまでに激しい戦に巻き込まれているというのも皮肉なものだ。
もちろん、俺とて異論はない、が。

「……何故、俺にそれを頼む。ここから無事逃げ仰せたとして、およそ平穏な生活を提供してやれるとも思えないが」

非常にもっともな言葉だったと思うが、何故かヴァーンは微かに笑いをこらえるような表情になった。
「別にお主に一生面倒を見て欲しいと言っているのではない。誰か信頼の置けそうな人物に託してくれてもいい。ただ……」
老人はそこで言葉を切って、俺とテレサを見比べる。
「ただ……なんだ?」

「テレサが意識を失う前にお主の名を口にしたのでな。その者に託すことが、最良ではないかと思っただけだ」

「………………………」




牢を出て初めて、夜明け前とはいえ周囲に人の気配がほとんどないことに気付く。
人払いの結界を張ったのだと、闇に溶け込むローブの男は言った。
大罪人を逃がして大丈夫なのかと問えば、

「お主が処刑される幻覚を見るよう大規模な集団催眠をかける。……それが、孫の大切な者達を奪ってしまったわしからの、せめてもの罪滅ぼし………に、なればよいがな」

そんな風に自嘲した。
どこか虚無感の漂う笑いだった。
同情してやる義理はないが、この老人もただ皇帝の正義を信じて戦いに参加したわけではなく、何か他に戦う理由があったのだろうという心情が少しだけ伝わった。
テレサのことは、魔導力を秘めていて危険なのでヴァーンが預かり、魔導力を弱める結界の中に幽閉しておくということで皇帝を納得させたらしい。
そのまま手元に置くことも考えないではなかったが、いつ皇帝の気が変わり殺すよう命令されないとも限らないので、手放すことにしたようだ。


「どのような形になるかはわからんが、彼女が幸せに生きられるように力を尽くすことを約束しよう」


別れ際、俺は何の保証にもならないとわかっていながらも、そんな約束をした。
底の見えない深い瞳で、俺の心の奥を探るような視線を向けた後、老人は「頼んだぞ」と、微かに笑った。


そしてすぐにヴァーンが密かに手配した船でアルミスを発った。
行き先は、主星アルミスからそう遠くはないが、皇帝の直轄領ではなく、商人たちが共同で統治している商業惑星だ。

道中、眠るテレサを見ながら、こうして生き延びてしまったことが、この少女にとって本当に幸福であったのかと考える。
確かに俺は彼女の生を願っていた。
だが、目覚めた彼女に待っているのは、全てを失った現実だ。
きっと、自分だけが無事だったことを責めるだろう。
彼女は弱くはない。
弱くはないからこそ、自らの運命に、試練に、立ち向かおうとする。
そんな彼女にだから、心を惹かれたのだ。

明らかに自分には向いていない役回りだが、彼女が心から笑える日が来るまで、守り続けたいと、そう願った。

それが、俺にとっての幸福でもあるのだから。















夢を、見ていた。
騎士団のみんな    私の大切な人たちの夢。

船のラウンジにみんながいて、いつものようにキーファーとカインが冷戦を繰り広げてジョヴァンニに茶々を入れられている。
ユージィンはルノーの側にいてお菓子をとってあげたり世話を焼いて、そんな二人にショナが柔らかい視線を向けていて。
ゲルハルトとウォルターが話に白熱しすぎて白い目で見られてるんだけど、本人達はあんまり気がついてない。
カーフェイは呆れたように、だけどみんなの様子を優しく見守っていて。
そんな時間に私はとても満ち足りた気分で、お茶を用意している。


あたたかい、
           夢。
そう、これが夢だと、わかっている。
だって、本当は。


現実を思い出してしまった瞬間、地面が割れて、私はまっさかさま。


高く、高く、飛んだ。


さあ、私が着地した、場所は。















ぱたん、と。
静かにドアが閉まる生活音で、目を開けた。
歪む視界に映るのは、ただ、白。
しばらく考えて、それが天井だと認識したその時。


「意識が戻ったのか」


      聞こえてきた声。
それがカーフェイの声だと認識した瞬間、完全に覚醒した。
慌てて飛び起きようとすると、目眩がして再び枕に沈む。
「ああ、起きなくていい。寝ていろ」
その言葉に大丈夫だと首を振ってもう一度起きあがろうとすれば、彼は枕の位置を調節してベッドに座らせてくれた。

「何か飲むか?」
「ううん、それより、あれからどうなったのかカーフェイは知ってるの?話を聞かせて」
それを聞くまでは落ち着くことなどできそうもなかった。
例えそれが、辛い話になろうとも。
私の決意を受けたカーフェイは一つ頷いて、静かに話し始めた。




「あの人が……」
話を聞き終え、私を、そしてカーフェイを助けたのがヴァーンだと聞いて、複雑な気持ちになった。
「両親が望んだとおり、幸せになって欲しいとそう言っていたぞ」

大魔導師ヴァーン。
……私の、おじいさん。
彼のしたことは絶対に許せない。
でも、本当に悪い人には見えなかった。
お父さんのことも、お母さんのことも、私のことも、
……そしてレヴィアス様のことも、憎んでるようには見えなくて。

唯一の肉親と敵対して戦ったことを悔いているわけではない。
ただ、今は。




「……勝手、だよね」




口からこぼれた音は、思いの外冷たくて。
でも、止めることなんかできない。
私は、膝の上に置いた手をきつく握り締めた。

「あの人が送り込んできたヨハネのせいでルノーは死んでしまった。キーファーに直接手を下したのだってあの人だし、レヴィアス様にもいっぱい酷いことをした……。そこまでしておいてまだ「幸せに」だなんて」
「テレサ、それは」
「わかってる!あの場に覚悟のない人なんか一人もいなかった。みんなそれぞれに理由があって、力を尽くして戦ったんだ。私が他の人の分まで恨み言を言う理由なんてないって、わかってるよ……!」

制御できない感情が、堰を切って溢れ出す。
全てが、今言っても仕方のないことだって、わかっている。
八つ当たりみたいなものだって、わかっているのに。

「わ、私……何もできなかった……!」

おさえきれない涙が、こぼれた。

「私が封印をもっと早く解いていれば、みんなを守れたかもしれないのに……!」

悔しくて。


「私だけ助けるなんて、勝手だよ……!」


悔しくて。
悔しくて。
           悲しくて。


処理しきれない喪失感に涙が止まらなくなる。
カーフェイは何も言わずにいてくれた。
今は慰めも励ましも受け入れられなかっただろうから、それがとてもありがたかった。
でも、あやすように優しく頭を撫でてくれたりするから余計に涙が出て。
私は子供のように声を出してわあわあ泣いた。






ひとしきり泣いて落ち着くと、カーフェイの前でみっともない姿をさらしてしまった現実に思い至り、頭が冷えた。
「と、取り乱しちゃってごめんね……」
「いや、お前にはショックなことも多かっただろうからな。これからゆっくり気持ちの整理をするといい」
穏やかな声でそう言ってくれて、私から身を離してベッドの近くにある椅子に腰かける。
革命が失敗したことはカーフェイだってすごく辛かったはずなのに。

「ありがとう……」

彼の優しさに心から感謝の言葉をおくった、その時。
軽いノックの音と共に、ひょいと看護師さんらしき女の人が顔をのぞかせる。


「あら、奥さん目が覚めたの?先生を呼んでくるわね」


遠ざかっていく足音。
私は口をパクパクさせてカーフェイと閉まった扉を交互に見比べた。


「……………………お」




奥さん!?




何か聞き捨てならないことを聞いたような気が……!
願望が聞かせた幻聴!?と我が耳を疑う。
私の驚愕した顔を見て、彼は少々困った顔で頬を掻く。

「……深い意味はない。意識のないお前の面倒をみてもらうのには医者が一番いいだろうと思ったが、他人に任せるにあたり、どんな関係かと聞かれた時素直に『傭兵団の仲間だ』などと言うのは不審極まりないので、様々なことを考慮した結果一番潰しが利きそうなのが「夫婦」だったというだけだ」

若干早口で一息に説明されて、そう言われてみれば、と考えてみる。
……確かに、私とカーフェイでは兄妹(家族)というにはあからさまに出身星が違いそうだし、二人旅ならば恋人よりは夫婦の方が都合がいいのかも。

「不快に感じたのならばすまなかった。この病院にいる間だけのことだから、もう少し我慢してくれ」
私の沈黙をネガティブな感情に捉えたのか、カーフェイに謝られて、慌てて首を振る。


「不快だなんて、全然そんなことないよ!」


思わず、激しく主張しすぎてしまった。
驚いた(引いた)「…そうか…」という控えめなレスポンスに、うわあ、失敗した…!と血の気が下がる。
何かフォローしなくてはと必死に頭を回転させていると再びノックの音。
天の助け……ではなく、お医者さんだった。




お医者さんは、私の意識がはっきりしていて体にも特に問題がないことを確認すると、いつでも退院していいと言った。
早い方がいいから明日にでも、という話をして、カーフェイは「やることがあるから明日の朝また来る」と言い残して病室を出て行った。
一人になった私は、横になる気分にもなれなくて、ベッドサイドに座ったまま今後のことに思いを巡らせる。


退院……はありがたいけど、カーフェイはこれからどうするつもりなんだろう。
……できれば一緒にいたい。
…でも私がそれを言い出すことは、彼を縛ることにならないだろうか。
カーフェイの負担にはなりたくない。
彼が傍に居て欲しいと、共に来て欲しいと望むなら、私は自分にできることを何でもやって役に立ちたいと思う。
でも、足手まといになるくらいなら、そしてそれが彼の重荷になるようなら、
            私は…………。




夜になって病院が消灯すると、私はベッドから降りて、静かに身支度を整える。
まとめるべき荷物もないことに少し悲しい気分になったけど、それは見ないふりをして置いてあった紙に「お世話になりました」とだけ書いた。
そっと、慎重に窓を開ける。
幸い、ここは一階だ。
カーフェイのような特殊スキルを持ってない私でも、誰にも気付かれずに出ていくことができるだろう。
窓に足をかけて、外の世界へと飛び降りた、その時。



「何をしている」



頭上から降ってきたあるはずのない声に、ぎくりと動きを止めた。
反射的に音の発生源をたどろうとすると、その必要はないとばかりに木の上から声の主が私の前に降り立つ。

「こんな夜中に窓を開けるから何かと思ったら……、どこへ行くつもりだ?」

「カーフェイ……!どうして」

驚きについ声が高くなり、慌てて口を押さえた。
そんな私の様子を見て、辺りを見回したカーフェイは、回れ右を促す。
「……とりあえず病室へ戻れ。こんなところで話をしているのは不自然すぎる」


……逃亡は、失敗に終わった。


病室に戻ると、私が破棄する間もなくカーフェイは机の上の書き置きを手にした。
「…………あの、それは」
「お前が何を考えたのかはなんとなく想像がつくが、一応聞く。何故、出ていこうとした?」
「わ、私……」
二つの深紅に探るように見つめられ、意味もなく逃げ出したくなる。

どうやら、私の考えは見抜かれてしまっているらしい。
確かに下らない自己犠牲かもしれない。
それでも私にだって引けない部分はある。
「私は一人でも大丈夫だから。カーフェイは……カーフェイのやりたいことをして欲しいって思って」
「俺は迷惑などと」

「カーフェイは優しいから……一人になった私を放っておけないのかもしれないけど、自分のことであなたを縛りたくない」

うつむいて、ぎゅっとスカートを握りしめた。
全てが不安で、今にも足下から崩れそうだ。
側にいることも、離れることも、怖い、なんて。
だけど。




「……私は……、

 私も、カーフェイに幸せになってもらいたいんだよ……」




長い、長い沈黙。
最低限の照明だけの暗い室内で、私たちはずいぶんと長い間、向かい合ったまま黙っていた。

「テレサ」

無限とも思える時間経過の後。
口を開いたカーフェイの、優しい声。
彼は私の名前を呼んで、そっと頭を撫でた。
表情が、見たかった。
でも、どうしても顔を上げることはできずに。

「お前が戦いのない場所で平穏な人生をおくることは、お前の両親だけではなく、騎士団長全員の願いでもあるだろう。……だが、俺がおまえにそれを望むのは、決して俺が優しいからではない」

「え…………?」

思わず顔を上げれば、カーフェイはそこで言葉を切って、苦笑した。
決して卑屈な笑いではない。
声と同じ、優しい表情だった。

「騎士団で生活するうちに、いつの間にか「権力者達に虐げられる弱者」ではなく、「テレサという一人の少女」の幸福な未来を守りたいと思うようになっていた」

大きく、胸が鳴った。
何故か息苦しい。
「……どう、して」
詰まりながら聞き返すと、カーフェイはそっと……まるで、愛しいものを触るように、私の髪を撫でる。
深紅い双眸から目が離せなくなりながら、私は言葉の続きを待った。


「お前を、愛してしまったからだろうな」


「!!」


「お前の負担にしたくないから言う気はなかった。……それが、裏目に出たようだが」
私の書き置きに目を落とす。
つい「ごめん」と謝ってしまいながらも、私はかなり混乱中だった。

……まさか、
まさかと思うけど、お互いに同じことを考えてたって、そういうことなんだろうか。

「とにかくそういうわけで、お前を守るのは義理や義務感ではなく俺が個人的にやりたくてやることだ。お前が本当に一人で生きていきたければ、もちろんそうするといい。ただ、今はまだ皇帝軍も騎士団の関係者を追っているだろうから、せめてお前の身の安全が保障されるまでは側にいさせてくれ」

私は、やっぱりどうしても信じられなくて、首を振る。

「ま、待って、か、カーフェイも私を?嘘だよ、そんなの……」
「何で嘘なんだ?」
「だって、えっと…………………」

嫌われているとは思ってなかったけど。
『レヴィアス様(の作る世界)より私を選んでくれるとは思ってなかった』なんて言うのもなんだか変だし。
言葉に詰まった私を見て、カーフェイがたたみかける。


「お前「も」だというのならば、納得してもらえるとありがたいのだがな」


「え……………?あっ!!」


わ、私無意識に「カーフェイ「も」私を(好きなの?)」って言っちゃってた!?


べ、別に言いたかったことだからいいんだけどこんな形で伝わっちゃうなんて、なんだか恥ずかしい……!!
ああ、でも、まさかこんな形で恋が叶うなんて。
すごく嬉しいけど、でも……。


         ここで私だけハッピーエンドになってしまっていいのだろうか。


ふと、そんな考えが胸をよぎり、喜びを霧散させた。
悲しみに立ち止まることがいいことだなんて思えない。
でも……、

「レヴィアス様達に申し訳ないと、そう言うんだろう。きっとお前はそう考えるだろうと思っていた。どうしたいのかはゆっくり考えるといい。俺も元々言う気はなかったからな」

そんな私の葛藤などお見通しだというように、彼がそんな言葉をくれる。
そうやってきちんと私の気持ちを考えてくれる人がいるというだけで、本当に幸せなことだ。
「カーフェイ…………ありがとう」
好きになった人がカーフェイで本当によかったと、心からそう思った。










そして翌日。
お世話になりましたと手を振って病院を出た私は、カーフェイと共に歩き出す。
「そういえばお前は、この惑星で外にでるのは初めてだったな」
「うん。どんなところ?」
「賑やかだが雑多な印象を受けるな。人も物も多くて、治安もそれなりに悪いから、はぐれないように気をつけろ」
身の安全に関してもだが、揉め事を起こして目立つは危険だと言われて、大きく頷いた。

「それで……これからどうするの?」
「ここからそう遠くない隣の町に部屋を借りてある。そこで情報収集をしながら、少し様子を見るつもりだ」
この星についてから私が目覚めるまでの少しの間にそこまでやってしまうあたり、流石だなあと感心してしまう。
それを素直に告げると。
「死んだことになっているとはいえ、逆に俺が側にいる方が危険なこともあるかもしれないがな」
と、カーフェイは苦笑した。
その横で私も笑った。

「……いいよ」

「ん?」


「危険でも、大変でも、カーフェイの側にいたい」


「……そうか」


柔らかく、細められる赤色。
全てを失くした私にたった一つ残った、優しい絳<アカ>。
美しい深紅に魅入られてしまった私は、あまり長い時を必要とせずに好きな気持ちを抑えられなくなるだろう。
その時が来てもどうか呆れないで嫌わずにいて欲しいと願いながら、彼と並んで歩き続けた。















「あ、そういえば、昨日は何で木の上にいたの?」
道中、昨晩聞きそびれたことをふと思い出して、聞いてみた。
するとカーフェイはさらっと。
「当然、護衛だ。この星が皇帝の直轄領じゃないとはいえ、絶対に安全という保証はないからな」
そんな風に言うので驚いた。
「じゃあ、一晩中あそこにいるつもりだったの!?」
「お前の意識がない間は部屋に付き添っていたが、目覚めたのに俺に病室にいられてはお前が居辛いだろう」

「え?でも一緒にいてくれたら嬉しいよ?」

病院で簡易ベッドとか借りられたよね、と彼の顔を見上げると。

「……………………」

何故か、固まっていた。
「…………………?」
「お前は……………いや、いい」
何か言いかけてため息をついてやめられて、焦る。
「な、何!?私変なこと言っちゃった!?ご、ごめんね?あの、違うよ?簡易ベッドで寝るのは私でも良かったんだけど」

隣町までの道中、何故か私は妙なフォローをし続けたのだった。









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