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※9月16日の紅孩児誕の小?話です。
岩城、どうしても牛魔王の一問一答で、父上が『紅孩児から聞いた自分の誕生日』を答えたのを補完したかった模様。
紅孩児の誕生日なのに、なぜか父上メインぽい話です。
興味ある方はどうぞ。
捏造脳内設定過多ですよ……。
読んでいなくてもそれほど問題ないかと思われますが、一応『暗黒の淵の落とし子』設定前提です。










重厚な扉を開くと、黴臭さと年経りた埃に包まれる。
普通ならば眉を顰め不快感を催すであろうそれに、俺は少しだけ心を弾ませた。



それはまだ、俺が牛魔王の息子になって何年も経たぬ、もはや覚えていないほどの昔の話。




あの雨の日に牛魔王の息子となった俺は、王の息子たるに相応しい妖怪となるため、日々己を磨いていた。
力でも知識でも、得られるものは全て貪欲に吸収した。
学ぶことに夢中だったあの頃。
密かな楽しみは、空いた時間に広い城内を探検することだった。
古い建造物の多い冥界においても、相当な年代物と思われるこの城は、今ではその半分以上を機能させていない。

この場所は、父の生まれた場所だと聞いている。(もちろん父上ご本人から聞いたのではない)
だというのに父上がこの城を居城とするまでには様々な経緯があったらしく、周囲から随分と噂話を吹き込まれたが、俺にはあまり興味のない事柄だった。
父上ご自身が語る以外の父上の話など、何の価値もない。

そんなことよりも。
探検中に見つけた古い書庫の方が、余程俺には重要だった。

月明かりも入らぬ暗い室内に高く響く靴音。
歩くたびに埃が舞う床。
最近足繁く通っているので、埃の上にすっかり通り道が出来てしまっている。
本棚に並んでいるのは、父の蔵書ではないだろう。
前当主、つまり牛魔王の父(……ですらも先代から引き継いだものかもしれないが)のものだ。
古い書庫の発見は、まだ幼かった俺の心を躍らせた。
ただ、本ばかり読んでいるとあまりいい顔をされないので、父上には黙っていたが。

本の内容は様々だった。
書庫を見つけた日に端から読むことを決意し、今はようやく本棚を一つ制覇したところだ。
奇妙な達成感と共に並ぶ本を見ていると、どうやら読んだ覚えのない本が目に止まる。

…これだけ見逃していたのだろうか?

不思議に思いながら手に取ると、それは日記のようだった。
書いた者は……(一日目にかすれ気味の署名があった)……前当主、つまり牛魔王の父であり、自分にとっては義理の祖父だ。
格別の興味があったわけではないが、手に取った以上少し読んでみることにした。

最初の方は本当に昔に書かれた物のようで、ほとんど判読不能となっていた。
そして大した内容は書かれていない。
南部の小競り合いを制圧したとか、子供が生まれたとか、本当にただの『日記』のようだ。
早々に興味を失ってぱらぱらと先を急いだ。
単調な内容が延々と続き、ページも尽きてきたあたりで唐突に日付が途絶えている。

そして。

次のページには、


××××年 12月7日 牛魔 誕生


とだけ、やけに震える字体で記されていた。
その後は全て白紙だ。
一瞬疑問符を浮かべかけて、すぐに納得する。

なるほど。
このあたりのことが、『牛魔王に関する噂』の真相に迫る部分なのだろうと。

……が、俺が目に留めたのは空白の数年ではなく、字の震えでもなく、日付の方だ。


12月7日が、父……牛魔王の生まれた日。


その情報は、この場所を見つけたとき以上に俺を高揚させた。
先日閻魔王様が貸してくださった書物では、地上界には生まれた日を祝う習慣があるのだと書いてあった。
(閻魔王様の城にはどうやら三界の書物が沢山あるらしい…少しだけ羨ましい)

父が生まれなければ今の自分もない。
そう思えば、自然とその日は自分にとって特別な日に思えた。




「父上は、12月7日にお生まれになったのですね」

晩餐の時にそう聞いてみると、父上はあからさまに眉を顰めた。
「………閻魔か?」
「え?」と聞き返しかけて、すぐに閻魔王様からもたらされた情報かと思われたのだと理解する。
「いいえ。書庫にあった日記に書いてありましたので」
「……日記?」
「はい。前当主の物だと思いますが…ご存知ありませんでしたか?」
「…………………」

父上は何やら考え込んでしまった。
この話題はこれで終わりということなのだろうか。
父の思索の邪魔をしてまで聞きたいこともないので、俺は静かに食事を再開した。

しばしして、顔をあげた父上の隻眼がこちらを向いた。
「それで、その日記には何かお前にとって必要なことは書かれていたか」
その下問に「はい」と大きく頷く。


「父上のお生まれになった日を知ることが出来ました!」


・・・・・・・・・・。


再び、父上が黙る。
黙るというよりは『固まっている』ようにも見受けられて、自分は何か変なことを言っただろうかと首を傾げた。

「……………それが、お前にとって必要な情報か…」
「地上界では生誕日を祝う習慣がある、とさる書物で目にしました。別に人間に倣うわけではありませんが、父上あっての自分ということを思えば、父上のお生まれになった日は私にとっても大切な日です」
最初に『閻魔か』と眉を顰めた父上を思い出し、本を『閻魔王様にお借りした』の部分を省いた。
「…………ふむ。むしろそれならば、自分の生誕日を祝うがいい」
「ですが、私の生まれた日は……」
わからないので、と言いかけた自分の声に父上の声が重なった。


「9月16日だ]


「……え?」
ご存知なのですか?
そう、問うよりも早く、

「……と、言えばお前は信じるか?」

向かい側にいる、父上の一つしかない血の色の瞳が俺を射抜く。
冥(くら)く、美しい真紅。
戯れだろうか。試されているのだろうか。
僅かに歪められた口元からは、笑みと言える表情も読み取れなくはないが、父の真意はまるで想像もつかない。

…ただ。


「信じます」


迷うことはなかった。
考えるまでもない。
俺にとって父の言葉以上の真実などありはしないのだから。

躊躇いもなく頷いた俺を見た隻眼が細められる。
「何故、とは問わぬのか」
「父上、貴方のお言葉だけが、私にとっての真実。父上がそう仰るのであれば、それ以外のものは全て偽りです」
断言すれば父上は可笑しそうに口角を上げた。
その日はそれきり会話はなかったが。
幼い俺は9月16日という日付を胸に刻んで、幸せな気分で一杯だった。


………遠い、遠い昔の記憶だ。













扉を開くと、黴臭さと年経りた埃が我を包み込んだ。
この場所を居城としてからそれなりの年月が経っているが、ここに入ったのはこれが初めてだった。
生き物の気配のしない暗い室内に、低く、硬質な靴音が響く。
高く積もった埃に、頻繁に出入りしているらしい紅孩児の足跡が無数についていた。

目当てのものはすぐに見つかった。
まるで導かれるかのように手に取ったそれこそが、父であった者の日記だ。
ページを繰れば、延々と続く唾棄すべき平穏な内容に不快感を覚えて眉を寄せる。


本当に。
つまらぬ妖怪だったのだ。
我の父であった男は。


生れ落ちてすぐに死と隣りあわせで身を守ることに必死だった、忌まわしい記憶しかないこの場所で暮らしているのは、感傷や望郷などとは無縁な『たまたま空き城だったから』というだけの理由でしかない。

我の父であった男は、生まれた子供の潜在能力の高さに気付き、遠くない未来に自分の地位を追われることを恐れ、その力が覚醒する前に殺してしまおうと考えた。
母は強大な力を宿した子の出産に耐えきれず、我を産み落としてすぐに死んだという。
どちらも冥界では、そう珍しいことでもない。
……ただ、わが血族は代々力の強き者を輩出してきた『名門』だったらしく、強大な力を持つはずの当主がそのような行いに及んだことが後々発覚して、随分と噂になっていたようだ。

……くだらぬ。

もはや、憎いと思うほどの感情の動きはない。
思えば、憐れな妖怪だ。
力に怯え、力に敗れた。
統治者としての能力が低かったというわけではないのかもしれないが、妖怪としての誇りなど、そこから欠片も感じられなかった。


生れ落ちてそう月日の経たないうちに、我は殺されかけた。
あるいは、それが我を殺すことができた最初で最後の機会だったのかもしれないが。
良心や愛情などという愚かな感情が阻んだのか、あの男は結局とどめを刺すことが出来なかったのだ。
だが、殺すという決意は翻らなかったようで、その後も度々生命の危機にさらされた我は、城を出た。
その当時はただ身を守るためだけにそうしたのだが、冥界でも屈指の名門(武を正義とする冥界において血統を振りかざすなど愚か極まりない…)の当主である父は、相当焦ったようだ。

生まれた子供の力が強大だったために、地位を追われることを恐れて殺そうとした、などと。
そのような噂が流れればその地位も安寧ではなくなってしまう。

証拠隠滅のためか、躍起になって放たれた追っ手を返り討つ日々が続いた。
あまりにも昔のことゆえ、曖昧な記憶だが、



……ただ、何故か、その日のことだけは鮮明に覚えている。



成果が出ぬことに痺れを切らした当主自らが、不祥事を揉み消すためになりふり構わず、かなりの数の兵を率いて息子を討ちに来た時のことは。


深く、暗い森の中だった。
発見され、包囲された時には、『何故』という強い感情が我の心を支配していた。

何故。
何故自分はこんな目に遭っているのだろう。

見覚えのある顔……父が一歩前へ出る。
相対したその男の瞳には、もはや殺意しか映っていなかった。
息子を見る目ではない。
獲物を発見した者の目だ。
そしてそれを見た瞬間、我は納得したのだ。

『ああ、そうか』

やけに静かな気分だった。


『奪えばよいのだ』


父から学んだことがあるとすれば、それが唯一のものであろう。
血も、情も、必要ない。
ただ、奪い、求めるのが妖怪なのだと。

扉が開いた、というのが最も近い感覚かもしれない。
大量の力が開いた場所から流れ出し、体に宿った。
呼吸をするように、自然な動作で。





刹那の殺戮。





気付いた時にはその場に生きているものは自分一人。
満たされ、同時に渇いていた。
力を。
より、強い力を。
ただ求めて。

我は、何の感慨も抱くことはない、地に転がるかつて父だったモノを一瞥もすることなく、歩き出した。


……それが。

9月15日の深夜だったということだけは何故か覚えているのだ。
何故、幼い自分は日付を数え続けていたのだろうか。
自分がどれだけ逃亡生活を続けたのか、誰かに訴えようとでもしていたのか。
今となってはわからぬ。

ただ、あの日、全てが終わった。

……そして翌日、全てが始まった。

それから長き時を経て、同じ場所に生まれたのが、紅孩児だ。
この世に生れ落ちた正確な日付などわからぬが、あの夜の殺戮がなければ紅孩児は生まれていなかった確信が我にはあった。
ならば破壊の後の誕生を、生誕の日とするのもあながち間違ってはいまい.






ほとんど頭になど入っていなかった単調な日記は、既に最後に差し掛かっていた。
途切れた日付。
それから数年後のたった一行。

××××年 12月7日 牛魔 誕生

その震える文字に、特別な感情を抱くことはない。
つまらぬ男のつまらぬ手記だ。
目にすることが、紅孩児のためになるとも思えぬ。
日記を消失させようと手に力を込めかけて、





…ふと。





文字が目に入った。

それは、小さく、薄く、洗練されているとはいえぬ稚拙な筆跡だった。

最後の一行の横に、





9月16日 紅孩児 誕生





と書き足されている。

「……………あやつ」

晩餐の会話の後、すぐにここへ来て記したのか。
脱力して、小さく笑いが漏れた。
先刻の会話が脳内に蘇る。

『それで、その日記には何かお前にとって必要なことは書かれていたか?』
『父上のお生まれになった日を知ることが出来ました!』

……紅孩児には何を考えているのやら、どうにも読めないところがある。

『父上、貴方のお言葉だけが、私にとっての真実。父上がそう仰るのであれば、それ以外のものは全て偽りです』

そう言って、幸福そうに笑った。
他の者が発したならば、到底信じることなどできぬ、華美で大袈裟な言葉。
だが、ただの世辞や追従と一蹴するには、紅孩児が向けてくる視線は正直すぎた。
自分に向けられた感情を、悪くないと思ってしまう自分に未だ戸惑っている。

「どうせ書くのならば、堂々と書け」

この場にいない紅孩児に、思わず文句が出た。
手に用筆を喚び寄せ、大きく書き直す。
筆跡が父に似ているような気がして、若干不快な気分になった。
……が、並んだ名前に覚えた満足感が、それらを軽く払拭していく。

紅孩児はこれを見つけるだろうか。
喜び、先程のように屈託なく笑うのだろうか。


「……………下らぬ」


一つ息をついて。
日記を閉じて、本棚に戻した。
踵を返すと埃が舞った。
書庫を出て、扉を閉ざす。

『紅孩児が頻繁に出入りするのならば、このあたりも手を入れねばならぬな』

…と、
そんなことを考えて。

自然口元は笑みを刻んだ。

 

 

 

 


 

書き終えて改めて物凄い捏造ぶりに自分で驚きました☆
ちょっと紅孩児に夢見すぎですか……。
基本的には、『何故牛魔王の誕生日を紅孩児が知っていたのか』を補完したかっただけです。
あと、『父上は絶対由緒正しいお家柄の生まれだ!』という妄想を形にしたかったのと。
もう少しこの時(牛魔王子供時代)の閻魔王との関係とか、
牛魔王生誕の数年前に一旦日記が途絶えている理由とかねちねちと書きたかったのですが、
時間もないし長くなるので省いておきました。
まだ冥界の文化レベルとかについては脳内で未補完なので、
この話とSYK本編では相当時代違ってますけども、あまり変わらない雰囲気で書いています。
 

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