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衝動。
力いっぱい振るったそれは、相手に『暴力』といえるほどのものを与えることも出来ず。
接触した場所が、殴った拳が、痛んだ。
一瞬の激情が過ぎると、怒りに眩んだ視界が正常に戻る。
こんなことやっちまって、オレ殺されるかな。
怒りの余韻はまだ体に色濃く残っているのに、どこか遠くで冷静にそんなことを考えている自分もいて。
戻した視線の先の相手は、
…しかし予想とは違う表情をしていた。
何で。
「貴様」
低い声は、大きくはなくて。
……少し、かすれていた。
オレの拳ではこの男に、ほんの少しのダメージすら与えられなかったはずだ。
なのに、何で。
動きは見えなかった。
空気が動いたから、『ああ俺、殴られるんだ』なんて思ったときには体が宙を舞っていて。
容赦なく壁に打ち付けられ、無様に床に崩れ落ちた。
顔は役者の命だってのに、きっとひどい顔になってるんだろうなあ、と心の裡で笑う。
苦しい。肋骨が折れているかもしれない。
足音が、近くで聞こえた。
殺される、のだろうか。
そうだとしたら最期は笑ってやろうなんて思って、苦心して首を上げた。
「…………………」
紅孩児は、ただオレを見下ろしていた。
全然、笑うことなんて出来なかった。
そこにはいつもの尊大な、見ているだけで無性にイラッとくるような、自信満々の表情はどこにも見当たらなくて。
だから、お前、何で。
「な…んで………」
そんな顔でオレを見るんだよ。
問おうとして肺から絞り出した声は、声とはいえないような汚い音だ。
聞かなくてはと思うのに、見上げていることがつらかった。
そもそも、怒ったのは俺なのに。
何でお前がそんな、悲しそうな、悔しそうな、やり場のない感情を堪えているような、そんな顔してるんだよ。
奴のいうところの脆弱な人間であるオレは、
その疑問を口にすることは叶わず意識を失った。
『業火に咲(わら)うオプティミスト』
些細なことだった。
そう、珍しくもない。いつものことでもあった。
ただその日、オレはあんまり虫の居所がよくなくて。
数日前、知り合いの下級妖怪が凶暴化した妖怪に襲われて死ぬという事件があった。
情報を集めたところ、それは決して日常的なことではなく、だが最近どうもそういう話が増えているらしい。
その調査をして欲しい、もしくはさせて欲しいという陳情をするため、オレは牛魔王に会うため城を訪れた。
だが。
牛魔王はオレの主張をばっさり「下らぬ」の一言で切り捨てたのだ。
曰く、「凶暴化した者にあっさりと殺されるような妖怪は、この先冥界で生きていくことなど叶わぬ。淘汰されるべき存在が淘汰された。それだけのことを気に留める必要もない。…人間であるお前には、わからぬかもしれぬがな」
確かにそうかもしれないが、それは詭弁ではないのだろうか。
……だが、この冥界において絶対の存在である牛魔王に対して、反論は許されていない。
「下がれ」と言われてしまったオレは、すごすごと謁見の間を後にしたのだった。
オレは城下に暮らす下級妖怪たちよりは、城にもそれなりに出入りできるし、利用価値のあるうちはそう簡単に殺されはしないだろうから、上に意見を言うだけは言える。
お前なら、と、仲間たちから寄せられ託された頼みに、応えられなかったことが酷く堪えた。
(きっとみんなは『牛魔王様がそう言ったなら仕方ないさ』と言ってくれるだろう。その表情までも想像できてしまうことが辛い)
そんな帰り際に、紅孩児とバッタリ顔を合わせたのだ。
そういえば珍しく謁見の間で牛魔王の傍に控えていなかった。
紙袋を抱えているところを見ると、どこかに行ってきたところなのか。
このときのオレは、落ち込んでいたせいで少し判断力が鈍っていたのかもしれない。
『ひょっとしたら』などと淡い期待を抱き、謁見の間であったことを話して、とりなしてもらえないかと頼んだのだ。
紅孩児は、牛魔王よりある意味では話の通じる男だ。
概ね人の話を聞いていないし、空気は読まないし自分眩しいし俺様だし馬鹿だし、とにかくアレだが、牛魔王よりも情がある。(…とオレは感じている)
このときのオレは甘かった。
そもそも牛魔王が『否』と言ったことを紅孩児が覆そうとするはずもない。
そんな当然のことが、わからなくなっていたなんて。
もちろん、話を聞き終えた紅孩児は、侮蔑の表情で鼻を鳴らした。
「父上の仰ることも尤もだ」
……と。
「貴様の主張は、地上界では正当なものかもしれないが、この冥界においては父上の仰る通りに瑣末なことだ。そもそも自ら調査したいなど……」
紅孩児の声が、右から左に流れる。
ああ、そうだった。
紅孩児は、妖怪で。
「転生前ならともかく、今の貴様にそのような力はない。身の程を知ることだ。人間風情が」
そんなの、自分が一番よくわかっていることだ。
なぜか、とてもその一言が悔しくて、掌に爪が食い込むほどに拳を握りしめた。
「……っだから、力を持ってるお前らに頼んでるんじゃないか」
「他力本願か?この冥界で何かを為したいならば、再び妖怪に転生することだな」
何かの切れる音を聞いた。
期待?
そりゃちょっとくらいはしていたさ。
紅孩児という妖怪は、蘇芳という人間の言うことを、ほんの少しくらいは真面目に聞いてくれてるんじゃないかって。
だけどそれは。
紅孩児がオレと話すのは。
ぎし、と奥歯を噛み締めた。
怒りが理性の箍を食いちぎる。
「オレは、蘇芳っていう人間なんだ!!」
幼稚な、意味のわからない主張だったかもしれない。
だが、言わずにいられなかった。
だって、気付いてしまった。
無力な自分、『金蝉子の関係者の転生』以外の価値を持たない蘇芳という人間のことに。
溢れ出す感情、衝動のままに紅孩児を殴った。
意外にも避けもしなかった男は、しかしわずかに体を揺らしただけで、欠片ほどのダメージも受けていないだろう。
きっと自分は今、酷い顔をしている。
怒っていいのか、泣きたいのか、そんな自分を笑いたいのかすらもよくわからない。
そうしたら。
何故か、殴った相手が「想像した自分と同じ顔」をしていて。
え、と思った次の瞬間にはもう殴り返されて床に沈んでいたわけだけど。
殴られた顔よりも打ち付けた背中よりも、殴った手が酷く痛んだ。
意識が戻ったのは、一体どうやってここまで戻ったのか自分の部屋の寝台。
泣きそうな金閣と銀閣が半ベソで覗き込んでいて、心の底からほっとした。
ちなみに銀閣が半ベソだったのは金閣がはりきって『今こそ私の病人食の腕がうなりますわ!』と宣言したのを止めようとしていたからだそうだが……。
オレはこの時ほどさっさと目覚めたことに感謝したことはない。
危うくとどめを刺されるところだった……。
怪我は、思っていたよりも酷くはなく、骨が折れたりしているようなことはなかったので、数日中には普通に動けるようになりそうだった。
『蘇芳様のお世話を!』と張り切る金閣を、オロオロと止め時にはフォローし時に共に暴走する銀閣。
『お前らが静かにしててくれた方が早く治る』なんて本音半分、照れ隠し半分でツッコミを入れたりして。
金と銀と一緒にいると、楽しい。
ただ、一人になると殴った拳が痛んだ。
紅孩児の表情が忘れられなかった。
何だよ。
被害者みたいな顔しやがって。
眉を顰めて、両手を頭上に掲げて見上げる。
月明かりに照らされた左手には、蓮の紋章。
こんなもののせいで。
オレは勝手に冥界に連れて来られて。
来たばかりの頃は、こんなものなければよかったのにとずっと考えていた。
手を切り落とす、とか、焼いてしまう、とかそんなことも考えた。
そうすればこの紋章は効力を失うかもしれない。地上に戻れるのかもしれない。
だけど、出来なかった。
冥界にとって無価値になったら殺されるのが怖かったわけじゃない。
ただ単に、痛みが怖かっただけだ。手を失うことが。
……そんな臆病な自分も許せなくて。
一部の上級妖怪には『裏切り者の転生』なんてあからさまな侮蔑を向けられたりもしたけど、むしろ前世に一番文句を付けたいのは自分だと思う。
そもそも独角鬼とかいう奴は、一体何をしていたのだ。
直属の護衛をしていたにも関わらず唯一無二の君主を裏切り、敵対してまで加わった第三の勢力でも志半ばで倒れ。
力のある妖怪だったと聞いてはいるが、大切なものなど、何一つ守り通せていないではないか。
そんな奴の転生だということ自体不愉快だった。
ああ、そしてまたひとつ。
わかってしまった。
わかりたくなんかなかったのに。
紅孩児にとって、独角とかいう男の転生であるオレは、妖怪でなくてはならなかったこと。
そんなこと。
言われたところでどうしようもないし、オレは自分が人間なことを否定したいとも思っていない。
別に紅孩児に好かれたいわけでもなんでもない。
そもそもオレは出会った時からずっと紅孩児のことは嫌いだ。
……まあ、人間で紅孩児に好感を抱く奴とか、あまりいないんじゃないかとは思うけど。
やたらと偉そうで。人の話を聞いていなくて。
ことあるごとに『人間風情が』とか言うし。
だけど、紅孩児はオレにだからそんな態度なのではなく、牛魔王以外の誰にでもそうだった。
『裏切り者の転生』だからではなく、オレの態度に対して『失礼な奴だ』と腹を立てた。
そんなところはほんの少しだけ嬉しかった。
突然茶に付き合わされたりもした。
飲みなれない紅茶は苦くて(もっと薄く淹れた方が絶対に美味しいと思う)、甘いものが好きなオレは菓子ばかり食べて眉を顰められたりもしたけど。
やがて慕ってくれるようになった金や銀、仲良くなった下級妖怪達には見せたくないような、子供っぽい言い合いや不平不満を言い合える相手でもあった。(お互いに一方的なことを言っているだけだったけど)
だけど、オレは紅孩児の望むものではなかったんだ。
オレが殴った時と殴られた時の、紅孩児の驚愕の表情。
オレが人間だってことに初めて気付いたみたいな顔をしてた。
だって、オレは人間で。
そんなのどうしようもない。
好かれたくなんかないけど、悔しかった。
同じものなんか一つも見えていなかったこと。
『蘇芳』はいらなかったんだという事実が。
数日後、紅孩児から召し出しがあって城に向かった。
心底気乗りはしなかったが、残念ながらすっぽかせるような立場でもない。
俺は言い渡された場所に向かった。
西の大陸のナントカいう様式風に整えられた庭園。
そこは紅孩児のお気に入りの場所だ。
優美な東屋に紅茶の茶器一式と紅孩児。
自然重くなる足を引きずってそこまで歩いていって、「何か用?」と気のない声をかける。
『遅い』とか文句を言われるかと思ったけど、紅孩児は無表情のまま「座れ」とだけ促した。
渋々、正面の椅子に座る。
すぐに「飲め」と非常に高圧的に、柔らかな色の琥珀が差し出された。
「……どーも」
特に拒否する理由もなく受け取って、ふわふわと立ち上る湯気をぼんやり見ていると、今度は「食え」だ。
ずいと差し出された皿に並ぶ菓子(『スウィーツと言え』と訂正されたことがあったな…)は、どれも美味そうだ。
特に空腹だったわけではないが、甘いものは好物。
ありがたくいただくことにする。
『……まあ、慰謝料ってことで、いいよな』
一口頬張って、甘みに幸せな気分になってから。
ふと、自分の思考にひっかかりを覚えた。
ひょっとして紅孩児、
そんなつもりじゃ……ないよな?
思わずじっと目の前の男を見る。
「何だ」と眉を寄せた表情には、反省の色など当たり前だがありはしない。
この期に及んでそんな期待をしてしまっている自分に苦笑した。
紅孩児に限ってそんなことがあるはずもないだろう。
先日のことなんて、別になんとも思っていないに違いない。
あるいは、これから殺すから最後くらいは美味いものを食わせてやろうとかそういう………あんまりシャレになんないなそれ。
なんて思ってみたものの、特に殺そうとかそんな気配も見当たらなかった。
きっと単なる気まぐれなんだろうと勝手に決めて、カップに口をつける。
あれ?
なんかいつもと違うな。
柔らかい、味だった。
紅孩児は濃い方が好きだと思っていたけど。
以前、苦いから砂糖を大量に入れたらものすごく嫌そうな顔をされた覚えがある。
しかし今日のは………、
「美味しい、かも」
そのまま飲める味だ。
思わず口から出た本音にチラリと赤い瞳をこちらに動かした紅孩児は、誇るでもなく「そうか」と無感情な返事をした。
それから、会話はない。
紅孩児はじっと手元の紅茶に視線を落としている。
減っていないところを見ると、あまり進んでいないようだ。
オレは考えていた。
先程のありえない考えを。
まさか謝罪とか『仲直り』のつもりなんて……、
あるわけ、ない、はずだけど。
むしろここは真相なんて考えずに、いい方にとっておくべきなのか。
だって、オレの機嫌をとる必要なんてないはずだろう。
むしろ先に殴ったのはオレなんだから、不敬罪!なんて拷問されたりしてもおかしくはないと思う。
…………なのに。
ぐるぐるとそんなことを考えていたら、手元の紅茶はなくなっていた。
「……もっとないの?」
オレが空のカップを差し出せば、紅孩児は無表情のまま、まだ沢山中身の入っている自分のカップを置いた。
遠慮しろとか怒られたりはしなかった。
「今淹れるから待て」
言うなり指を鳴らして、出現した新たなポットに新たな茶葉を入れている。
「……別に出がらしでいいのに」
「貴様……そのようなことで紅茶マスターになれると思っているのか!?いいか、茶葉は一度開いたらそれ以上香りが出ないのだ!香らない紅茶など色水と変わらん!……まあ、貴様のような下等な人間にはわからないかもしれんがな」
ひとしきり語って自己完結して、砂時計をひっくり返す。
わからないとか思うなら、そもそも語らなければいいのに。
「面倒だなあ」
と、オレは笑った。
本当に、面倒な奴。
オレは自慢じゃないけど注意力はある方で。
色々なことに気付いてしまうというのは必ずしもいいことばかりではないけど。
ポットに茶葉を入れる紅孩児の手元を、うっかり見てしまった。
いつも大量に投入される茶葉は、今日に限って少なかった。
目下には美味しいものばっかりが乗った皿。
そうじゃないかもしれない。
でも、そうかもしれない。
別に、いいのに。
オレはお前のことなんて、会ったときからずっと、今だって嫌いで。
何も期待なんかしてないのに。
再び、注がれた紅茶が目の前に置かれる。
やっぱりいつもより薄くて、飲みやすくて。
「このさあ、なんか丸いやつ美味しいよな」
「なんか丸いやつ……?全然わからん。何だ貴様その貧困な表現力は」
「これだよ、これ。いろんな色があって綺麗なやつ!」
「……ああ、マカロンか」
「ふーん。そんな名前なんだ」
マカロンは俺様には少し甘すぎる、なんて言った紅孩児が、
自然な動作でカップを口に運んでから眉を顰めて手元を二度見したのを見てしまって、
オレは思わずふきだした。
ちょっと、今の何。
すっげえ面白かったんですけど!
腹抱えて笑い出したオレを、紅孩児が怪訝そうに見ている。
「何だ貴様。この俺様の淹れた素晴らしい紅茶を過剰摂取しすぎたせいで気でも触れたのか」
「いや……ごめん、…なんでもないんだけど」
ああ、もう。
ほんっと、オレって。
……こういう面倒な奴に弱いんだよなあ。
妖怪って、人間より力があるのになんだか不器用で。
金も銀もそうだけど。
放っておけない。
冥界にいると、すごく、すごくそんな気分になる。
これ、損な性分って言うのかな。
「まったく……おかしな奴だ」
紅孩児は呆れ顔だ。
たぶん、だけど。
紅孩児はオレに対して謝罪とか、そんな気持ちはまったくないと思う。
まあ、そもそも先に殴ったのはオレだし。
……でも、オレが本気で怒っていたのはわかって、あれをそのままにはしておきたくなくて。
きっと、それで呼んだんだろう。
『言いたいことがあるなら言え!聞いてやる!』みたいな、超・上から目線の仲直り。
おかしな奴は紅孩児のほうだろうと、言ってやりたい。
「……なあ、紅孩児」
「………何だ」
「オレは、オレなんだよ」
「別に、そんなことは改めて言われなくてもわかっている」
「だからさ……」
なんて言えば伝わるのだろう。
伝えたい気持ちを伝えられる言葉を探して。
オレは、紅孩児を真っ直ぐ見た。
「今は、オレだけを見ろよ」
………………………。
あれ、これなんか告白っぽくね?
嫌な静寂があたりを包み込んで。
一瞬後にはぶわっと鳥肌が立った。
「いや、待って!!オレなんでお前に告白してんの!?」
固まっていた紅孩児が、オレの叫びに我に返った。
「それはこちらのセリフだ!何故貴様が驚く!?まあ俺様の素晴らしさにうっかり告白したくなる気持ちもわからなくはないが……」
「全然違うから!!変なフラグ立てないでいいから!!選択肢間違えたんだよ!ホラ、よくあるだろ!?〇ボタン連打してセリフ流し読みしてたらうっかり選択肢が出てそのまま押しちゃうこと!」
「何だそれは意味がわからん」
オトメイトのゲームは巻き戻しが出来て本当に便利だよな!
……とか、何言ってんだろオレ。
何の話だっけ。
「違うよ、オレは、告白じゃなくて、ただ、えーっと……」
がりがりと頭をかく。
ああもう、言葉って難しいな。
「……ちっとは、蘇芳って人間がいることに気付いて欲しいなというか」
「……………」
「転生とか言われても、オレ記憶ないし。魂が一緒だからひょっとしたらなにか似てたり混同するようなことが」
「…ない」
「え?」
聞き返す。
刹那、合った視線はすいと逸れた。
「蘇芳、貴様と奴とは、全然似ていない」
過去を思い返しているのか遠くなる双眸。
感傷の色など見当たらない横顔ではあったけど。
そこに寂寥を見てしまった(ような気がした)のは、所謂『人間的な脆弱さ』のせいなんだろうか。
「……ただ、俺は。……」
……その先が、紡がれることはなかった。
オレも、無理に聞かなくていいと思った。
わかっていても、どうにもできないことがあるとか、そういうことなんだろう。
紅孩児が器用じゃないってのは、短くない付き合いなのでよくわかってる。
だから。
「おかわり!」
美味い菓子と美味い紅茶が答えでいい。
ずいっとカップを差し出せば、
「今日はよく飲むな」
と紅孩児が微笑った。(少し嬉しそうに見えたなんてのは希望的観測かな)
指を鳴らして出てきたポットは何故か二つ。
ああ、薄いのが我慢できなかったんだ。
でも、濃いの淹れるとオレが文句言うかもしれないから、二つ。
………………ほんと、こいつって。
「オレ、紅孩児の入れたやつの後の出がらしでいいよ」
とか、懲りずに言ってみる。
貴様は先程の俺様の話を聞いていなかったのか!?と怒り出した紅孩児がおかしくて。
オレは陰鬱な冥界の空の下、陽気な笑い声を上げたのだった。
本格的にコトが動き始める前の、束の間の平穏?という感じです。
ちょっと紅孩児が弱い感じですが。
独角を失ったことについては深く考えたくなくて蓋をしてしまったので、自分の中で整理がついていなくて。
…だから触れられる(触れてしまう)とフリーズしてしまう。
そんなのをイメージで書いています。
だってなんかオフィシャルで独角のこと大好きすぎなんだもん紅孩児……。
仲、悪いんじゃなかったの……。