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なんというか、全然祝えていませんが、
……ナタクのお誕生会をプロデュースする紅孩児が書きたかったので!
岩城の素のノリ全開で書いたので、世界観を無視したかなりカオスな話に仕上がっています。
カオス上等!という方のみ、続きから読んでやってくださいませ。
宣言しておきます。ギャグです。
ナタクの一日は占術で今日を視るところから始まる。
その結果が吉兆であろうと凶兆であろうと、ナタクの占いで視る事のできるそれは定められたことであり、基本的には避ける事のできないものだ。
だからナタクはどんな結果が出ようとも、例えば凶兆であるのならそれを少しでも軽減するために自分に出来ることをするまでである。
しかし流石に本日の結果は、冷静沈着なナタクをも戸惑わせるものだった。
「全てが凶……?部屋から一歩も出ずに布団をかぶって寝ていろとでも言うのか……?」
ない眉を寄せて、考え込む。
そうできるのならばそうしていたいが、きっとそれも叶わぬのだろう。
外れることなど期待できないほど、残念ながらナタクは優秀な占術師だった。
今日一日の己の身の振り方について考えていると、城仕えの下級妖怪がやってきて、紅孩児が呼んでいる旨を告げた。
途端、背中に嫌な汗が流れるのを感じる。
凶兆の占いに紅孩児の呼び出し。
間違いなくろくでもないことに巻き込まれるであろうことは火を見るよりも明らかだ。
……だが。
自分の立場でそれを拒否することなど出来はしない。
ナタクは内心大きく溜息をつきながらも、『すぐに向かう』と言う以外になかった。
呼び出された場所は、食堂だった。
それは城に仕える妖怪たちの賑わう方ではなく。
……紅孩児と牛魔王が食事を摂る場所だ。
「あの…………」
現実を直視することに躊躇い、朝っぱら(…と言っても冥界の空は常に夜だが)から鼻歌交じりでテンション高めの紅孩児に控え目に声をかける。
「なんだ?早く座れ」
もちろん、この男がナタクの意を汲むはずもない。
わかってはいたが、ナタクはどうしても聞かずにはいられなかった。
「いえその……」
眼前に広がる光景に、ごくりと唾を飲み込む。
「……この サ バ ト は一体……?」
「サバト?何を言っている。ナタク、貴様のお誕生会だろうが」
「は…………………?」
パードゥン?
思わず知るはずもない異国の言葉が脳裡を過ぎった。
「おた……」
お た ん じ ょ う か い ?
食堂を彩るおぞましい光景よりもさらにありえない単語を突きつけられて、ナタクはペンキをぶちまけたかのように白くなった。
何かの暗号とか暗喩とか比喩とか例えとか何かとにかくそういう別のものである可能性を様々に思い浮かべてみたが、ナタクの目の前に立つ男の表情には含みは一切ない。
駄菓子菓子。
この、悪夢の晩餐(朝だが)と呼ぶに差し支えない、映像化したら確実に年齢制限が入るであろう食卓のどこがどうして『お誕生会』に結びつくというのか。
確かに、食卓の上には様々な料理(これを食べ物と呼ぶのであれば)が並び、中央には巨大なケーキが鎮座ましまして、壁を覆う紅白の垂れ幕は若干目に痛い。
それらを総合するとなんとなく『祝おう』という雰囲気が伝わらなくもないような気もしなくもない………、
いや、しない。
やっぱり、これは『お誕生会』などという和やかな単語とは無縁の、
そう、 『 魔 宴 』 である。
「…………………」
「なんだ?この俺様プロデュースのサプライズパーティーに、感動して声も出ないか?」
これがサプライズパーティーだというのなら、確かにその試みは成功している。
主に、サプライズの部分のみ、だが。
「……随分と大きなケーキですね。(……あれはバースデーではなくウェディングケーキというものでは……)」
ナタクは紅孩児の発言へのコメントは差し控え、聞いた。
スルーされたことに気付いた様子もなく、紅孩児はやけに嬉しそうに大きく頷く。
「ああ、その昔閻魔王様が、誕生日にはあのようなケーキを用意し、好敵手と共に入刀するとその年一年は健康に過ごせると教えてくださったのだ!」
そんな話あるか。
間違いなく、絶対に騙されている。
一体閻魔王とはどんな人柄だったのかとナタクは頭を抱えた。
……話題を変えよう。
「……その、な、何故私の誕生日を……?」
「貴様は元天界の者だからな。堕天してきた時に当然興信所を雇って身辺を調査させた。その時のデータを見ただけだ」
興信所って何だ。浮気の調査か。せめて諜報部とか言え。
「いえ、そうではなく、何故そもそも私を祝おうと……?」
「ふむ…………」
ナタクの質問に、紅孩児は顎に手を当て、言葉を選ぶような少し真剣な表情を見せた。
…やはり、ただのお誕生会などではなく、何か理由があるのだろうか。
「……実は先日、さる大陸から芸人の一座が訪れてな」
「芸人、ですか」
「ああ。奴らが一体どんな芸をするのかと興味を持ち、俺様は城に呼ぶことを考えた」
「……はあ」
「だが、父上はそうした娯楽をあまり好まれない」
「そう、ですか」
「そこに!」
ズビッ!と指を突きつけられて、その勢いにのけぞる。
「貴様の誕生日という口実が転がっていた!」
「………………………」
「幸い、お誕生割引で安く済んだ。感謝しているぞナタク!」
紅孩児の表情は、真面目そのものだ。
清々しい笑顔には、似合わぬ誠実さすら浮かんでいる。
お誕生割とかあるものなんだろうかそういう興行に。
別に、意味も意義も見出せない自分の誕生日を何の口実に使われようと、勝手にしてくれと思うが。
「そういうわけで、今日はお前も楽しむといい。料理も好きなだけ喰らい、飲んでかまわんぞ」
……思うのだが。
できれば、自分は巻き込まないで欲しい。
「私は……」
「ちなみにこの皿は、拷問者が刑車や台に残った肉片を食わせた豚の肉に、鎖蛇の心臓と黒コブラの舌を詰めた 」
この男が始末に終えないのはこれが好意だということだ。
口を開きかけたナタクを遮っての紅孩児の大変親切な料理の説明に気が遠くなるのを感じた。
聴覚がとらえることを拒否するような解説を終えて、とにかく座れと促されてついた席には、ワインにしては随分と黒っぽい液体の注がれたグラスが既に置かれている。
ナタクは本日二度目の背中に嫌な汗が流れるのを感じた。
この場を辞する理由を先程からずっと考えているのだが、突きつけられた現実のあまりのサプライズ具合に頭が上手く働かない。
とりあえず料理だけでも『食欲がない』とか言って拒否しておかなければ、と決心したところ、厳かに扉が開かれ、慌ててそちらに視線を向ける。
「……朝から何の催しだ、これは」
扉からは、起き抜けなせいか機嫌の悪そうな牛魔王が食堂へと入ってきた。
紅孩児が立ち上がり一礼したので、ナタクも当然それに倣う。
頭を下げながら、ナタクは少しだけ期待した。
『そのような下らぬ催しなど今すぐにやめろ』と、牛魔王が一刀両断してくれることを……!
引かれた椅子に優雅に腰を下ろした冥界の王に、紅孩児が『お誕生会』のことを説明する。
「余興に、ゾティーク大陸から来た芸人一座を呼んでおります。よろしければ父上もお楽しみ下さい」
「…………………」
何者にも興味を抱かぬような、暗い、しかし鮮やかな紅の瞳が眇められる。
紅孩児は、先程自分で『父上は娯楽を好まれない』と語っておきながら、何故そんなに自信満々でこのようなことを言えるのかと、ナタクは不思議でならない。
しばしの沈黙。
やがて。
信じられないことに。
その隻眼が微かに和らいだ。
「…………そうだな」
牛魔王の視線が、ナタクの方へと向いた。
「ナタクよ、我が息子の企画を楽しんでいくがいい」
「は…………………」
ブルータス、 お 前 も か … … ! !
別に牛魔王はナタクの朋友でもなんでもないが、そんな叫びが脳裡に響く。
……失念していた。
割と最近気付いたことだが。
冷徹で冷酷で苛烈で厳格な印象の牛魔王だが、息子にはかなり甘いのだ。
先日も、『紅孩児が地上に買い物に行くので気付かれないように護衛しろ』などと命じられたばかりである。
……一体、地上のどこに冥王に次ぐ実力者を害することが出来るような猛者がいるというのか、本気で質問したい衝動に駆られたが、仕事だと自分に言い聞かせ、無心でコトにあたった。
色々と思い出したナタクは死んだ魚のようなどんよりと濁った目になって、流石は我が息子、と言わんばかりの満足げな牛魔王から目をそらす。
そして、お誕生会という名の魔宴は始まった。
どこだかいう大陸の芸人達の連れてきたグロテスクな食屍鬼 墓地などの地底に群生し、人肉を食する魔物 が、骨の髄を氷で満たすような忌まわしい歌声で唄い、半人半獣のサテュロスのフルートがか細く単調でおぞましい音色を奏でた。
紅孩児も牛魔王もそれなりに楽しんでいるように見える。
気付かれないように小さく溜息をついて、どこを見ても目に痛いので、ぼんやりと紅白の垂れ幕に目をやった。
…………妖怪の感性はよくわからない………。
だが、口実とはいえ、紅孩児がわざわざ自分のためにこれだけしてくれたのだ。
その好意と信頼をありがたく思う……、
はずもなく。
ただただ時間が早く過ぎ去ってくれることを祈りつつ、
ナタクは、自分の占術の確かさに少しだけ辟易したのだった。
宴は延々と続き、ナタクがよろよろと自室にたどり着いたのは既に夜だった。
扉を開くと、部屋の中央にはフォ〇ョンの紅茶缶が積みあがっていた。
その上に置かれた、気取った文字で書かれたバースデーカードに疲労が倍増する。
「お歳暮にはまだ早いのでは」
デパ地下的スタンダードな贈り物具合に突っ込んだその声を最後に、ナタクは極度の疲労により寝台へと倒れこんだ。
おしまい☆
タイトル『魔宴』はラヴクラフトから、
旅芸人?の一座はC・A・スミスの『暗黒の魔像』から一部拝借しております。