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それは、ナタクが堕天してそう年月の経たないある日のことだった。
定期報告に上がったナタクの顔をふと覗き込んだ牛魔王は、

「お前はどこかあれに似ているな」

と、この男にしては珍しく、面白げに口角を吊り上げた。


『あれ』が何を指すのかは、なんとなく雰囲気で察した。
しかし………一体どこが似ているというのか。
容姿は、まるで違う。
ようやく扱えるようになってきた妖怪としての力の質も、強さも、彼と比較になるものではない。
……とすれば、

性格、ということになるのだろうか。

絶対に似ていない、と思う。
傲岸不遜にして高圧的な人格を思い返せば、むしろ切実に似ていて欲しくないと思う。
しかし当然、牛魔王は自分の言動について、どのような意図で発したか親切に補足説明してくれるような男ではない。
容赦ない「ご苦労だった」の一言で謁見は終わりを告げる。
疑問符を脳内に浮かべながらも牛魔王の御前を辞すと、謁見の間に続く通路で、タイミングよくいやむしろ悪く、その『あれ』に声をかけられた。


「ナタク、ちょうどいいところにいたな。ついて来い」


ナタクの都合も聞かずにいきなりこれだ。
自分の事は見えにくいというが、自分は他人から見てこんな風に映っているのだろうかと少し不安になった。


 




連れて行かれたのは『あれ』こと紅孩児ご自慢の庭園だ。
噂には聞いていたが、紅孩児の私的な場所であるため、基本的に手入れをするものとその主以外は入ることを許されていないので、ナタクも見るのは初めてだった。
薔薇の咲き乱れる西の大陸風の庭園は、冥界に似つかわしくない美しさだ。
紅孩児が芝居がかった気障な動作で指を鳴らせば、テーブルと椅子二脚、それに紅茶道具一式が用意される。
座るよう促されたのでその通りにすると、ややあって冥界の王子自らが淹れた紅茶が差し出された。
光栄なことなのかもしれないが、冥界に忠誠を誓っているわけでもないナタクには、別に不必要に紅孩児を立てねばならぬ理由はない。
簡潔に礼を述べて、ティーカップを受け取った。
ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐる。

優雅にティーカップを傾ける紅孩児の正面で、若干所在無く紅茶を飲みながら、彼が自分をここに連れてきた用件を言い出すのを待った。
……が、ナタクの手の中にある紅茶がほとんどなくなってもそれが切り出されることはない。
無為な時間に痺れを切らして、ナタクは仕方なく口を開いた。
「それで……一体何のご用でしょうか」
「用?」
カップに注がれた紅茶の水面から視線を上げて、紅孩児は首を傾げた。
「いや、特に用などないが?」
「は?」
「この俺様が茶に誘ってやったのだ。光栄だろう」
「………………………」
思わず、目を瞬かせた。

ナタクには、紅孩児のことがさっぱりわからなかった。

『ちょうどいいところにいた』と言ったのは、つまり茶を飲む相手を探していたということなのだろうか。
暇なのか。
自分を見つけて「ちょうどいい」も理解できない。
もちろん、ナタクは紅孩児と親しい間柄などではないし、紅孩児もこれまで積極的にナタクに話しかけてきたことなどない。
組み手でもさせられるならともかく、自分はこのような席に誘って楽しい人柄では絶対にないと思う。

結論:さっぱりわからない。

考え込んでしまったせいで、紅孩児はその話題はもう終わったと思ったらしく、再び紅茶の世界に入ってしまった。
「この茶葉ならばもう少し蒸らしてもいいかもしれん……アプリコットとトロピカルなブレンドは定番だが、ベリーとの相性はどうだ?」などと意味不明のことをぶつぶつ言っている。
紅孩児と話していると、自分の脳が機能していないような錯覚に陥る。
言動から何も読めないのだ。

この何ともいえない微妙な間をどうしたものかと内心で溜息をついて紅孩児から視線を外すと、咲き誇る薔薇園が目に入った。
一体何者が手入れしているのだろう。
力のみを求める妖怪の住まう殺伐とした冥界に、このような技術者がいるというのはあまり想像できない。
人間界から造園技師でも掻っ攫ってきたのか。この男ならば容易にやりそうだ。
テーブルの中央にも、紅い、見事な一輪が活けられている。

「花が……お好きなのですか?」

気付けば、そんな問いが口からこぼれていた。
突然の質問に、紅茶との対話を邪魔された紅孩児は気分を害した様子もなく答える。
「花か?そうだな、嫌いではない。美しいし、香りもいい。花もだが、植物は何でもいいな」
何だか、鎮元子を思い出して、少しだけ親近感を感じれば。

「人間は燃やすと跡形も残らないが、植物は焼き払ってもまたその後から芽が出たりするだろう。その生命力には感心させられるものがある」

「……そうですか」
前言撤回。
何故、燃やすこと前提なのかがわからない。
燃やすな、と喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。
言っても詮無いことだ。
彼は彼なりに植物を愛しているらしいという結論で自分を納得させた。

若干遠い目をしたナタクに注意を払うでもなく、紅孩児は持論を展開させる。
「力を持つものは何でも美しい。尊重すべきものだ」
「力を……お望みなのですね」
「妖怪である以上当然だろう?」
「ゆくゆくは三界の覇者になるため……ですか」

より強くあらんとする欲望、そんなものは冥界に身を堕とした今も感じたことはない。
目的のために、必要な力だ。だから求める。それだけのことだ。
決して、力のみを渇望しているわけではない。
一体この男のどこが自分に似ているのかと、少々辟易しつつ口にした言葉に、紅孩児は自信たっぷりに頷いた。


「ああ、父上がな!」


パラリ~ン!とか、スパーン!とか、なにかそういう(頭の悪そうな)効果音がしそうないい笑顔だった。
予想していた答えと違ったことに、ナタクは少々面食らう。
「……いえ、しかし紅孩児様が後を継がれるのでしょう?」
「………………………?」

何故、そこで黙るのか。
しかもその疑問符は何だ。
確か、牛魔王に実子はなく、他に後継者と目されているものはいなかったはずである。
実力だけでいっても紅孩児のそれは他の上級妖怪を凌駕している。
紅孩児が力を求める結果というのは、冥王を超えることになるのではないのか。

「ふむ……俺は確かに力を望んでいる」
しばし考えた末、紅孩児はこんなことを口にした。
「しかし、その力は最終的には父上が手にするべきものだ。俺が力を手に入れ、父上に挑み、その力を我が物とした父上は更なる覇王となろう」
紅孩児は恍惚と微笑った。
本気の言葉だった。

「それは……………」
それでは、殺されるために強くなりたいと言っているようなものではないか。
手に入れた力で冥王に勝つ、という選択肢は存在しないのか。
それは本当に、力を求めている、ということになるのだろうか。
牛魔王がそのように教育したのか、常人には理解できぬ感覚だ。


しかし、ナタクはそこに少しだけ共感できるものを見出した。
紅孩児の考えとまったく同じではないが、ナタクも、家のため、兄のため働くことが大切だった。
ささやかな平穏を守るため、兄が少しでも幸せになるため、特に自分を省みたことはなかったような気がする。
自分を省みないというのは、別に卑屈になっているわけではない。
それこそが自分の幸せに繋がることだと……信じていたからだ。
今はそれすらも失くしてしまったが。
牛魔王は、このことを言っていたのだろうか。

「例えば、の話ですが」
ふと、唐突に聞いてみたい衝動に駆られて口を開いた。
「それが命を賭けるに値しないものだった場合……紅孩児様ならばどうなさいますか」
自分のように裏切られたら、自信に満ちたこの男でも、絶望するのだろうかと。


問われた紅孩児は、今度は迷わなかった。考えもしなかった。


「値するもしないもないだろう。力なきものはこの冥界では生きて行けん。淘汰されるだけだ。俺も…父上であろうとも例外ではない。それは事象であり、結果である。感情など特に関係ない。俺は、力を求め、力のみを信じる。……それだけだ」


お前には理解できないかもしれんがな、と、紅孩児は誇らしげに笑う。
今度の紅孩児の答えは、予想していたものだったのに、ナタクは、やはり理解できないと思った。
したくなかった。
迷いなく言葉を紡ぐその姿に羨望を感じた、などということを。


若干負けた気分で、もはやほとんど水分の残っていないティーカップに視線を落とした。

「ナタク」

呼ばれ、のろのろと顔をあげる。
何が楽しいのか、紅孩児はやけに上機嫌に見えた。
「貴様も花が好きなのか?」
「いえ。……いいえ、好き、かもしれません」
ナタクの曖昧な答えに、はっきりしろと紅孩児が笑う。
怒った風でも、呆れた風でもなかった。
何故、そのように答えたのか。
面倒くさくなったからだ。
こんな男の前で、わざわざ頑なになったりすることが。

「嫌いでないならばもうしばらく花を愛でていろ。もう一杯紅茶を淹れてやる」

特に、それを拒否する理由もなく。

言われた通りにぼんやりと、庭を眺める。
花が、美しく咲いていた。
紅孩児が茶葉の入っている缶を開けると、ふわりと甘い香りが漂う。
「……いい香り、ですね」
「ふむ、そうだろう。アプリコットのブレンドのフレーバーティーだ」
「あんず、ですか」
湯を注ぐとまたふわりと香る。
紅孩児がひっくり返した砂時計の砂がさらさらと落ちていく。
冥界特有の、およそ快いとは思えない風が花を揺らした。
濃い障気は未だ好きになれず、明けない夜は気持ちを沈ませる。


……だというのに、ここにはあまりにも穏やかな時間があった。
自分の愛した、穏やかさが確かにここにあった。


新たなティーカップに注がれた紅茶が、すっとナタクの前に置かれる。

「飲め」

尊大で、不遜で、傲慢な態度だった。
だが、『負けた』と思ったことで力が抜けた。
この男には、裏がない。
読めないのではなく、読む裏がないということに気付いた。
だから、ナタクも上から目線の好意を素直に受け取れた。

「……ありがとうございます」

澄んだ紅が、カップを満たしていた。
……あたたかい。
冥界にも、復讐を望む自分にも無用のあたたかさだった。
このような場所を、居心地いい、などと。
自分は本当に身も心も妖怪になってしまったのだろうか。
……別にそれでいいと思っていた。
復讐が為れば、それでいいのだと。


暗い思考に沈みそうになるナタクを、紅孩児の上機嫌な声が遮った。

「アプリコットは元気の出る香りだそうだ。
 貴様はいつも覇気にかけるからな。もっと飲むといい。
 貴様には力がある。元気な方が力が出るだろう。
 父上だけではない、俺様も、お前のことは気に入っているぞ、ナタク」




…………まったく、わからない。




一体、何を思って自分にこんなことを言うのだろう。
しかし、わからないのは、こんな言葉に救われた気分になってしまった自分も同じだった。

ナタクは、躊躇い、逡巡し、やっぱり少しだけ笑った。

「光栄です」

滅多に見る事のないナタクの柔らかな笑みを受けて、紅孩児もまた満足そうな笑みを零した。










〇後書き〇

ナタクと紅孩児です。ノットカップリング。
や、別に全然カプでもいいんですが。深読みしたい方は、是非。
岩城としてはこの二人は百合です。
百合って絵ヅラ……。いやいやナタクは美形ですから!(紅孩児美形カテゴリじゃないの!?)
とにかく、ナタクが冥界に少しでも居場所を見出してくれてたら嬉しいなとかそういう文章です。

ちなみに、父上がナタクと紅孩児を『似てる』と言ったのは、二人とも甘い部分があるなと思ったからです。
紅孩児よりはナタクのほうが全然優しいでしょうが、二人とも冷酷装っても最後の最後の最後で情を捨てきれない感が。
紅孩児は父上が本当に力をなくしてしまったとして、それを容赦なく殺したりは絶対出来ないと思うんです。
牛魔王はそれが『玉に傷』と思いつつも、でもそんなところが愛しくもあり。
ナタクもそういうところありますよね。
すごく無機的なのに、すごく人間臭いところがある。
何だかそういうところがかぶって見えて、父上のナタクへの好感度がアップしたとかまあ、結局は紅孩児への愛前提の話なんですが。
もちろん、紅孩児もナタクもそんな甘さの自覚はないですね。
「自分はやれてる!」と思ってる。
またそんなところも(以下省略)

ナタクかわいいですねナタク。
「ナタクの一日」見てたら、結構冥界で愛されてるなあ、と嬉しくなりました。
本編の方でも牛魔王の信頼厚い感じがいいですよね。
忠誠とかないからこその信頼が逆にたまらない冥界。
基本的に皆「利用してるだけだ」というスタンスなのに、何故か結構仲良くやっている不思議。
ナタクも「こいつらダメだ……」と思いつつも、身内と違うから「まあ、どうでもいいか」みたいに許せちゃう部分もあって。
馴染むわけでも、愛するわけでもなくても、気楽であってほしいと思います。

ナタク×金蝉子大好きなので、金蝉子とナタクの捏造生還(転生?)エンドとかもそのうちやりたいですね。
……そこまで手が回れば……。

それにしても……蓮咲伝の紅茶占いの紅孩児は本当酷いですよね……。(愛)
どこから突っ込んでいいのかわからないほど、出番の最初から最後まで。
いや、うん……もう本当にそんな君が大好きなんだ。
買い物リストの指定が細かいあたりのいらん几帳面さとかがたまらなく好きだ。
いるよね、こういうどうでもいいことにだけ細かい人。
気を使うべきはそこじゃねえよ!みたいな。
紅孩児大好き。

 

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