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蘇芳エンド後に起こった事件の話。
蘇芳×玄奘要素も少しありつつ、メインは蘇芳と冥界親子。







「さあ玉座を渡せ。薄汚い簒奪者……下等な人間よ。我らの元へ降るというのならば、下級共をコントロールするためのお飾りとして命だけは助けてやってもいいが」


高圧的な口調に反吐が出そうだ。
あんたらに妖怪を名乗る資格なんてないんじゃないの、と鼻で笑ってやりたい。


「牛魔王様の封印を解け!正統なる王の復活こそが、冥界を繁栄へと導くのだ!」


まるで死へのカウントダウンのように、ゆっくりと、足音が近づく。
オレは背後にいる玄奘をかばいながら、僅かに後退した。
すぐ後ろはもう玉座だ。
敵に制圧された室内には、オレたちを守るために戦ってくれた妖怪たちが無数に倒れていて、起きる気配もない。


これはあれだ。


所謂一つの絶体絶命の大ピンチ。















深層共鳴不協和音ヲ響カセロ



オレが冥界の統治を押し付けられてから10年。
オレはオレなりに冥界という土地をよりよくすることに力を注いできた。

……が、そもそも冥界は妖怪たちの世界。

人間の支配を面白くないと思う連中が出てくるのはまあ、自然な流れだ。

『蘇芳』の統治が始まった時に牛魔王の下にいた上級妖怪の一部は城を去った。
その一部が、10年の時を経て牛魔王の復活を求めて反乱を起こしたと。
オレとしては、最終的には妖怪たちの手に委ねたいと思っていた(どっちにしろ人間のオレは100年も200年も生きられない)し、統治者などという立場にはこれっぽっちも執着はない。

「(だからまあ、こいつらに冥界押し付けて玄奘と夜逃げとかしちゃったっていいんだけどさー)」

話を聞いていると、まるでオレが牛魔王を封印して玉座を奪ったみたいなんですけど。
勝手に眠りにつくとか言いだした牛魔王に冥界を押し付けられたオレとしてはそんな言われ方は甚だ不本意だ。

もっと前はどうだか知らないが、オレが来た頃の牛魔王はもう本当に冥界のことなんかどうでもよさそうで、統治は紅孩児に丸投げ、紅孩児もその下に概ね丸投げという状態だった。
紅孩児は冥界の統治に相当興味はなかったが、奴にとっての冥界は「父上のもの」だったため、最低限の規律のようなものは徹底させていた。(それも牛魔王と紅孩児が桁外れに強かったためできたことだ)


で、その下でこそこそと甘い汁吸っていた連中が、ここにきて蘇芳政権に反乱を起こしたわけなんだが。


……正直、今牛魔王の封印が解けたとして、あの男がどんな態度に出るのかはオレにも予測がつかない。
以前と同じ状態にはならないだろう……というのは希望的観測かもしれないが。

だが冥界を任された以上、オレにだってオレなりの責任や信念や理想ってものがある。

「(誇り高い妖怪が聞いて呆れる。玉座が欲しければ、奪えばいい。お前たちはただ単に牛魔王という強力な後ろ盾が欲しいだけなんだろう。)」

下級の統治のためにオレを生かしておくとか、正統なる王だから牛魔王の復権をとか、そんな下らないタテマエ、まるで下等と蔑むオレ達人間みたいな考え方なんじゃないの。
ってむしろそう考えるオレが人間らしくなくなっちゃってるかな。


でも、こんな下衆な奴らにむざむざと冥界を渡すわけには、いかない。


…………とは思うものの。

金と銀は城外を包囲している敵と今も戦っている。
目前の敵は上級妖怪の中でも力の強い奴だ。
キングであるオレがおさえられたも同然な現状、チェスなら既にチェックメイトだろう。
一気に形勢を逆転するような秘策などもない。

玄奘、ごめん。
今度ばっかりは結構やばいかもしんない。


「……蘇芳……」


オレの尖った気配に気付いたのか、玄奘の気遣うような声音に大丈夫だと視線で返す。
まだ、殺されはしないだろう。
奴はオレに利用価値があると思っているし、いつでも殺せると侮っている。

「……ごめんな、玄奘。こんなことになっちまって」
「いいえ、あなたは最後まで私を地上へ逃がそうとしてくれていたのに、行かなかったのは私の我儘なのですから。謝ったりしないでください」
「……玄奘……」

こんな状況でも力強く微笑んで見せるなんてかっこよすぎるだろ。
……ったく、参るよな、ホント。

「安全な場所に逃げて欲しかったけど……あんたがいてくれて、すっげー勇気が出るってのが本音」

これは、オレもかっこ悪いところ見せられないよな。

「絶対諦めないから、本当に駄目って時まで、玄奘も一緒に頑張って」
「はい」


とはいえどうしたものか。
当然の成り行きだが、オレは下級妖怪から支持が高いから「下級を優遇している」と思われている。
今回の件で反乱軍についた中級妖怪や上級妖怪は少なくなかった。
下級がいくらオレを慕ってくれていても、上級や中級の武力蜂起に歯がたつはずもない。
そして冥界では力のないものには何の権利もないのだ。


やがて、余裕を思い知らせるためか、本当にゆっくりとこちらに歩いてきた反乱軍の首領が足を止める。


声を張り上げなくても聞こえるほどの距離。
得物を持っていれば相手を殺せる間合いだ。


「さあ、どうする?そう長くは待ってやれんぞ」


……決断の時だ。

一時的にでも降るか、決死の逃亡か、討ち死にか。
どれを選ぶにしても、正面で勝利を確信してニヤついている妖怪に、一矢くらいは報いてやりたい、けど。
玄奘が、すがるようにではない、勇気をくれるように、オレの手を握った。


オレは。




    




口を開いた瞬間、何かが爆発するような轟音が響き、部屋が揺れた。

「ッ何だ!?」

その場にいた全員が、音のした方向   窓の外に視線を向ける。
だが、黒い煙が空を覆い、視界が悪く外の様子がなにもわからない。
まさか、金と銀が何か、おもいあまって自爆技でも使ってしまったのかと、笑えない想像が脳裏を過ぎって背筋が冷えかけたが。

そこに慌てて反乱軍の伝令が駆け込んできた。
様子からすると、相手方にも想定外の事態らしい。
「大変です!!」
「一体何事だ!?」


「城を取り囲んでいた我が軍が、突如現れた炎に『焼き払われ』ました!!」


「な        !?」




その瞬間、翼のような     否、マントが翻る音が、背後に。




反乱軍の首領がオレを   正確にはオレの後ろを見て凍りついた。

動けない。

突然、この部屋の重力だけ狂ってしまったかのようだ。

この世界を統べし         王の顕現。




「……何事だ、騒々しい」




振り向かなくても分かる。
この吐きそうな圧迫感も、空気を震わせる重低音も、オレはよく知っている。


「牛魔王……っ」


やっとのことで金縛りを解いて振り返った先には、黒き隻眼の冥王。
その隣にいつもある、もう一人の姿はなくて。
「(そうかさっきの轟音は……)」
納得して頭の片隅で笑った。


「牛魔王様!」
反乱軍の首謀者は、その近くへ駆け寄り、跪く    つもりだったのだろうが。
突如出現した火柱に、部屋の隅まで無様に弾き飛ばされた。




「貴様ごとき雑魚が父上に近寄るな」




炎の中に悠然と姿を現したのは   予想していた通りの姿で。
「……紅孩児……」
思わず零れた声に、紅孩児は一瞬だけこちらを向いた。


「な、何故だ……!紅孩児……様、は力を失ったはず!それに、我々は牛魔王様をお助けしようと    
流石は上級妖怪というべきか。
紅孩児の炎に弾き飛ばされてもすぐに立ちあがった、
が。




「黙れ」




あまりにも静かすぎる(それこそが恐ろしい)牛魔王の声音が、大きくはないのに空間を震わせた。
たった一つしかない、深く、暗い赤色が、哀れな妖怪を射抜く。
視線を向けられただけだというのに、先刻まで約束された勝利にだらしなくニヤついていた反乱軍の首謀者は、恐怖に目を見開いて動けなくなった。

「誇り高き妖怪ならば、なぜ自ら王を名乗ろうとせぬのか」
「あ、あ…………」
「生きる価値もない屑が」


冥界の王が無造作に放った拳で、あまりにもあっけなく、その命は散った。


それを見ていた伝令が、腰の引けたまま慌てふためき声を上げて逃げていく。
きっと、何よりその姿から反乱軍の敗北が伝わるだろう。




「……蘇芳」

後ろから声をかけられて振り向く。
振り返れば紅孩児は既に定位置である牛魔王の傍らにあって、少し乱れた髪を整えながらいつもの尊大な調子で続けた。
「まったく情けない奴め。下らんことで父上のお手を煩わせるな」
むっとして「悪かったな」と不機嫌な返事をしようとするのを、静かな声とマントの翻る音が遮る。

「紅孩児、戻るぞ」
「……はい、父上」


「……ま、待てよ!」


行ってしまう気配に。
思わず呼びとめてしまったが、オレは何でそんなことをしたんだろう。
立ち止まったが、振り返らずにいる背中に。

文句の一つも言ってやりたかったのに。



「その、ありがとな」



出てきたのはそんな短い感謝の言葉で。


予想はしていたけど、やはり二人は返事もしなかったし振り返りもしなかった。
そして歩き出し、どこかへ掻き消える。

封印ってのはどこにあるんだろう。
どうやら地下らしいということは一応わかっているのだが、オレは見つけたことも迷い込んだこともない。




そしてようやく完全に濃い魔の気配が消えると。
緊張の糸が切れてオレはその場にしゃがみこんで頭を抱えた。


「あーもう!美味しいとこだけもってっちゃってさ!普段は丸投げして寝てばっかいるくせに!」


本人達に言えなかった文句を思い切り吐き出すと、一緒にオレの横にちょこんとしゃがんだ玄奘がくすくす笑った。
「あれから10年、貴方の口からあのお二方のことが語られることはなかったので、過去のこともありますし、てっきり嫌いなのかと思っていましたが」
「何、もちろん大っ嫌いだよあんな奴ら」
「でも、とっても嬉しそうですよ」
「……そんなこと」


「色々あったのでしょうが、あの方々はあの方々なりに冥界を想い、そしてそれらを含んだ冥界を、貴方は愛していたのですね」


今の気持ちを全部言われてしまって何も言えなくなる。


ああそうだよ。
オレはずっと。

あいつらも同じ気持ちだったらいいのにって思ってたよ。


「……確かにあいつらのしたことで許せないことは山ほどある。好き放題した挙句、丸投げしやがってって文句もある。……だけどさ、なんか不器用でほっとけなかったっつーか……」
「私も、ずっと怖い存在かと思っていましたが……でも、少しだけ好きになれそうです。助けてもらったからではなく、冥界への想いを、感じたから」
「……うん。……ありがとう、玄奘。オレも、あんたも人間だから、あいつらのこと肯定しちゃいけないってずっと思ってた。だけど……オレは……」

感傷的な顔を見られたくなくて抱き締めれば、迷わず回された手が、オレの背中をあやすように優しく撫でた。

「私たちが生きているうちに、また会えるといいですね」
「冥界が今よりもっと落ち着いてより良い場所になった時に……自慢するために起こしてやろうか」
「それはいい考えだと思いますよ。たくさん頑張って牛魔王たちを驚かせてやりましょう」

目を合わせて、笑い合う。
こんな大切な温もりが傍にあるというだけで、その日はそう遠くない気がした。


「さて、また壊れた場所の復興をしなくちゃ。さっきの爆音……。紅孩児の奴、ちっとは手加減してくれてるといいんだけど」


たぶん、きっと、いや確実に大変なことになっている気がする。
迷惑な奴なんだからとかぶつぶつ言いながら。
……笑ってしまっているのを自覚してはいたけど、ひたすら気付かないふりをするオレだった。




















朧なクレシットの火明かりが陰鬱な階段を照らしている。
一つはよどみなく、もう一つは少しおぼつかない足取りで、乾いた石段をゆっくりと進んでいた。

「ッ…………」

後ろを歩いていた紅孩児が膝をついたので、牛魔王は立ち止まった。
驚きも労わりも怒りもなく。
無感情な瞳が見下ろした。

「やはり、負荷が大きかったようだな」

「いえ……問題ありません」

語尾にかぶせるように抑えた声音が返ってくる。
首を振って無造作に立ち上がった息子の虚勢に、牛魔王はひっそりと口角を上げた。
もちろん、休んだり手を貸したりなどしない。
先程と同じように、歩き出す。
少しだけその速度が落ちていたことには牛魔王も紅孩児も気づかなかった。


紅孩児が力をなくしてから10年。
紅孩児ほどの魔力を持った妖怪が失った力を自然に取り戻すには、それこそ100年単位の時がかかるだろう。
城外の反乱軍に対して振るった力は、牛魔王が即席で与えたものだ。
だが、牛魔王の力は紅孩児にですら強すぎる故、それを扱うことは身体に相当な負担をかけることになる。
が、紅孩児は自らそれを望んだ。

「父上のお手を煩わせるわけにはいきません」

……と。

結果、大きすぎる力は紅孩児の体を蝕んで、落ち着くまではしばらく苦しむことになるだろう。

何故そんな無理をするのか。
それはあの人間に見栄を張りたかったからではないのか。

そんな、らしくない思考をしてしまった自分に牛魔王は少しだけ驚いた。


紅孩児が再び小さく呻いたのが耳に届き、ふと、足を止める。


「……残らなくて良かったのか」


「え?」
答えのわかりきった問いかけだ。
苦痛のせいで一瞬下問の意味を図りかねた紅孩児は、すぐにゆるく首を振った。


「…父上のいない冥界になど、私には存在する理由がありません」


牛魔王にとってわかりきった答えだったはずだ。
紅孩児が、牛魔王よりも蘇芳を選ぶことなどあってはならない。
遠い昔から何も変わらない、濁りのないひたむきな瞳が自分だけに向けられることは当然であると     


……下らぬ。
考える価値もない戯言だ。
足を止める理由もなかった。


「蘇芳の時代が終わり、冥界が最も力を蓄えた頃に再び目覚め、その時こそ必ずや三界を父上に献上いたします」


紅孩児の不敵な言葉。
約束されたやりとり。
隻眼の王が満足の笑みを微かに相貌に乗せた。


      それでいい。
貪欲に、己の欲するところを求める。
それが誇り高き妖怪である証。


「その時を楽しみにしているぞ、紅孩児。    我が、息子よ」


あとはもはや言葉など必要としない。
黒き、魔王の翼のごときマントが翻れば、紅孩児も淀みのない歩調で後に続いた。










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